すさまじきもの

現代語訳

私が興ざめしていると思うものを挙げていきます。昼に吠える犬。春の網代。三月、四月の紅梅色の着物。牛が死んでしまった牛飼い。乳児が亡くなってしまった産屋。


官職任命の儀式に官職を得ない人の家は興ざめています。今年は必ず官職を得ることができるだろうと聞いて、かつてこの家にいた者たちで、今は散り散りだった人々、田舎じみたところに住む人々が皆集まってきて、この家に出入りする牛車の轅も隙間なく見えています。官職に任命されるよう、家の主がお参りに行く供に、私も私もと参上申し上げ、物を食い酒を飲み、騒ぎあっていましたが、任命式が終わる明け方まで、使者が門をたたく音もしません。おかしいなと思って、耳をたてて聞いてみると、先払いする人の声がして、上達部の方々は皆任命式のあった宮中から退出なさいました。話を聞くために前の晩から寒がってふるえ(ながら外で様子を探って)ていた下人が、とても憂鬱そうに歩いてやってくる様子を見る人々は、任命されたかどうかを伺うことができずにいます。その場に初めからいなくよそから来た者は、「殿はなんの位になられましたか。」と尋ねると、その返事に「どこそこの前の国司です。」と必ず答えます。家の主が役職に任命されることを本当に頼みにしていた者は、大変嘆かわしいことだと思っています。早朝になって、隙間なくい合わせていた者たちは、一人二人こっそりと退出していきます。古くから仕えている者、そんな風にその場を離れることができそうもない人々は、来年の国司が交代する国の数を、指を折って数えたりなどしています。体をゆすって歩いていた者たちも、とても滑稽で興ざめなものです。