藤壺の宮との過ち
現代語訳
藤壺の宮様はご病気で里にお下がりになった。主上が心配なさっている姿にも源氏は同情しながらもこんな折にでもお目にかかりたいと思い、気もそぞろで、理性も失いかけ、どこにも出かけなくなった。 御所でも二条院でも物思いにふけり、日が暮れると王の命婦に宮との手引きをさせるよう頼んだ。
「後々まで言い伝えはしないでしょうか。誰よりもつらい思いの私を、たとえ永久に醒めぬ夢にしましても。死んでしまいましても」 宮のご煩悶のご様子も、無理もないこととて恐れ多い。王命婦が御直衣などを集めて持ってきた。 お屋敷にお戻りになって、泣きの涙で一日中寝ていらっしゃるのであった。 お手紙などもいつも通りお目通しもしない旨をば王命婦から言ってきたので、いつものことながら辛くて、全く茫然自失、参内もなさらずに、に二、三日外出せずにいらしたので、またどうしたのかと主上がきっとご心配あそばすだろう、それも恐ろしいことである。 藤壺の宮もやはりつらい悲しいわが身であったとご悲嘆くれて、ご病気もお進みになり、早くご参内なさるようにとのお使いはたびたびだが、そんな気にはおなりにならない。
ほんとに気分がいつものようでないのはどうたわけだろうと、ご自身は密かにお考えあそばすこともあったので、辛くってどうなることだろうとご煩悶あそばす。 暑いうちは尚更起き上がりもなされない。
三か月におなりなので、はっきりとわかるくらいで、皆皆お見かけしては不審がる故、情ないご運が身に辛い。 皆は思いもよらないことなので、「この月まで奏上あそばされなかったとは」と驚くのである。 ご自身だけは、はっきりおわかりになる事もあった。 お湯殿などでもお傍近くお世話申して、どのようなご様子をもはっきりご存じあげているおん乳母子の弁、それに命婦などは「へんだ」とは思うが、お互い話し合うべき事ではないので、やはりどうしようもなかったほどのご運のほどを、命婦はあきれ果てている。 主上には、おん物の気のせいで、急にはご懐妊とはお見えでなかったように奏上したらしい。 誰も、誰もそうとばかり思ったのである。 主上はひとしお愛しさ限りなくお思いあそばし、おん勅使なども間もなく暇なく見えるが、それも何やら恐ろしく、宮はご煩悶の絶え間がない。