佐理の大弐

現代語訳

(海が荒れて)数日そういう状態ばかりが続くので、大変不思議に思われてうらなったところ、「神の御たたり」とばかり言うが、そういうこと(祟られるべき心当たり)もない。

どういうわけかと畏れていらっしゃったとき、(佐理が夢にご覧になったことには 脱文)、 たいそう気高い様子をした男がいらっしゃって、「この、天候が荒れて、何日もここに過ごしていらっしゃるのは、私がしたことです。 (そのわけは、)あらゆる神社に額が懸かっているのに、私のところにはないのが不都合なので、懸けたいと思いますが、 平凡な書家に書かせるのはいやでしたので、あなたにお書かせ申そうと思いましたので、 (あなたがここを通過なさるという)この時でなくてはいつ実現するだろう(今こそチャンスだ)と思いまして、引き止め申し上げたのです」とおっしゃるので、

「あなたは何という方ですか」と(佐理が)お訊きになると、 「この浦の三島におります老人です」とおっしゃるので、 夢の中でも、たいそうかしこまってお引き受け申したと思ったところで、目がおさめになって、これ以上言うこともない。

さて伊予へお渡りになるときは、何日も荒れていた天候とも思えず、うららかな天候になって、そちらの方に追い風が吹いて、飛ぶように到着された。 (佐理は)湯を度々浴びて、たいそう潔斎して身を清浄になさって、衣冠束帯を着けて、すぐに神の御前で額をお書きになった。