それほど遠くはない時の話、市を監督する立場についていた時光という笙の吹きてがいました。時光が、茂光という篳篥の笛の演奏家と囲碁をうちながら、一緒に篳頭楽という曲を口ずさんで楽しくなっていたところ、帝が急ぎの用事があるとのことで時光のことをお呼びになられました。
帝の使者がやってきて、その旨(帝が呼んでいること)を伝えたのですが、決して耳にも聞き入れず、茂光と一緒になってただただ体を揺らしていて、何も申し上げなかったので、帝の使いは帝の元に戻って、この旨をありのままに帝に申し上げます。どのような処罰があるのだろうかと使者が思っていたところ、
「立派な者たちなことよ。そのように音楽に夢中になって、他のことは忘れてしまうぐらい没頭していることこそ、尊ぶべきことよ。王位というのははがゆいものだなぁ。2人のもとに行って、彼らの音楽を聴くこともできない。」
とおっしゃって、涙ぐまれたので、使者は意外に思ったのでした。
この人たちのことを考えると、俗世に対する思いを断ち切るようにすることは、好きなことに没頭してことに通ずるものがあるに違いない。