一事を必ず成さんと思はば

現代語訳

ひとつのことを必ず成し遂げようと思うのであれば、その他のことが成り立たなくても嘆いてはならない。そして人が馬鹿にしても恥じてはいけない。あらゆることを犠牲にしなければ、ひとつのことを成し遂げることはできないのだ。人がたくさんいる集会でとある者が、

「ますほのすすき、まそほのすすきというのがある。渡辺という地にいる聖人がこの違いのを知っている。」

と言ったのを、その場に座っていた登蓮法師が耳にして、そのときは雨が降っていたのだが、次のことを口にした。

「蓑笠はありますでしょうか?あれば貸してください。このすすきのことを聞きに、渡辺に住む聖人のもとへ尋ねに行って参りましょう。」

他の人たちは

「余りにもあわただしいことだから、雨がやんでからにしたらよいではないですか。」

と言ったのだが、登蓮法師は

「とんでもないことをおっしゃりなさるな。人の命は雨の間に晴れが広がるのを待ってはくれない。私が死んで、聖人も死んでしまったら、尋ねに行くことができなくなる。」

と言って、走って出て行き、「教えてもらってきた」と他の人に詳細を伝えたことは、恐れ多く、ありがたく思われる。

「迅速にやればうまくいく」

と論語という文にも書いてある。この、すすきのことを知りたいと思うように、ある人の息子も、悟りをひらくきっかけを思うべきであった。