児のそら寝(P8)

現代語訳

今となっては昔の話ですが、比叡山の延暦寺という寺に一人の子供がいました。日が暮れて間もない頃、することもなく退屈をしている時に、僧たちが「さあ、ぼたもちを作ろう。」といったのを、この子供は楽しみにして聞いていました。そうかと言って、僧たちがぼたもちを作り上げるのを待って寝ずにいるのも体裁が悪いと考え、部屋の片隅に寄って寝たふりをし、ぼたもちが出来上がるのを待っていましたところ、もう作り上げた様子で、僧たちががやがや騒ぎあっていました。

この子供が、きっと僧たちが自分のことを呼び起こすだろうと待っていたところ、ある僧が「もしもし、目を醒ましなさい」と言うのを嬉しいと思ったが、ただ一度で返事をするとしたら、それも体裁が悪いと考え、「もう一度呼ばれたら返事をしよう」と我慢して寝ているうちに、「これ、起こし申し上げるな、小さい子供は寝入ってしまっておいでだ」という声がしたので、ああ情けないと思って「もう一度起こしてくれよ」と思いながら横になって周りの音を聞いていると、むしゃむしゃと盛んに食べる音がしたので、これはどうしようもなくなり、ずっと後になって「はい。」と子供が返事をしたので、僧たちは大笑いしました。