かぐや姫の嘆き(P23)

現代語訳

八月十五日頃の夜に縁側に出て座り、かぐや姫はたいそうひどくお泣きになっていました。もう人目もおはばかりにならずにお泣きになっていました。これを見て、親たちも「どうしたことか。」と大騒ぎをして理由を聞きました。

かぐや姫が泣きながら話すには、「前にも申し上げようと思っていたのですが、きっと悲しみで心を乱されるに違いないと思って言わずにここまで過ごしておりました。そんなに黙ってばかりいられようかと思い、打ち明けてしまうのでございます。私の身はこの国の人ではありません。それなのに、前世からの宿命でこの地上の世界にやってまいりました。今、帰らなければならない時になってしまったため、今月の十五日に、あの月の国から、人々が私を迎えにやってくるでしょう。これはやむを得ず帰らなければなりませんから、さぞ嘆き悲しまれるだろうと、それが悲しくて、この春頃から思い悩んでおりました。」と言ってひどく泣くので、翁は、「これは、何ということを言われるのか。姫は私が竹の中から見つけ出し申し上げたのでしたが、そのときは菜種くらいの大きさでいらっしゃったのを、私の背丈と同じくらいに大きくなるまでお育て申し上げた、その私の子を誰がいったいお迎え申し上げるというのか。どうして許せるだろうか、いや許せるはずがないだろう。」と言って、「私の方こそ死んでしまいたい」と大声で泣きわめいてまったく見るに堪えられない様子でした。

かぐや姫が言うには「月の都に両親がいます。ほんの僅かの間ということで月の国からやって参りましたが、このようにこの国で多くの年を過ごしてしまったのです。月の国の両親のことを覚えておらず、この国では、このように長く楽しく過ごさせていただいて、なじみ親しみ申し上げました。月の都へ帰るのは嬉しい気持ちがしません。ただ悲しいばかりです。けれども自分の意志からではなく、月に帰ろうとしているのです。」と言って、翁たちと一緒にひどく泣きました。」

召使いの人たちも、長年親しんでここで別れてしまうことは、姫の気立てが良く品があって美しかったことなどを見慣れていて、それゆえにここで別れてしまったらどんなに恋しかろうと思うと耐えられそうになく、湯水も喉を通らないありさまで、翁夫婦と同じ思いで悲しんでいました。