三輪の山伝説
現代語訳
恋しいならば訪ねていらっしゃい。三輪山の麓、杉が立っている門を。これは、三輪明神が、住吉の明神に差し上げなさった歌だと言い伝えている。
我が家の松は効き目もなかったなぁ。杉むらがある所であるならばきっと訪ねてくるだろうに。
杉を目印にして、三輪山を訪ねると詠むのも、すべて由来があるのだろう。
昔、大和国に男と女が共に暮らして、数年になったけれども、昼とどまってみることがなかったので、女が恨んで
「数年の中であるが、まだ顔を見ることがない。」
と恨み言を言ったので、男は
「恨み言はもっともだ。しかし、私の容姿を見ればきっと怖がり恐るだろうが、どうか。」
と言った所、
「この二人の間柄は、年を経てどれくらいか。たとえその容姿が醜いものだとしても、ただお見せください」
と言うので、
「そうだ。それならばそのお化粧道具を入れる箱の中にいよう。一人でお開けなさい。」
と言って帰った。さっそく開けてみると、蛇がとぐろを巻いてみえる。驚き思って蓋をかぶせてそこを離れた。その夜、男はまたやってきて
「私を見てびっくりしている。本当にもっともな事だ。私もやはり、正体を明かした後にやってくるような事は、恥ずかしくないわけではない。」
と言い、契りを結んで泣きながら別れ去った。女は君が悪いけれども、恋しいような事を嘆き思って、麻の巻きあつめてあるものを「綜麻」と言っている、その綜麻に針をつけて、その針を狩衣の後ろに刺した。夜が明けてしまうと、その麻を道しるべにして訪ねて行ってみると、三輪の明神の御神殿の中に入った。その麻の残りが、三輪残っていたので、三輪の山というのだと言っている。