わやくの部屋

UNICORN 2 -Lesson 7

The Power of Choosing
選択の力

Section 1

1982年2月5日、カナリア諸島の西、約800マイル(≒1,287km)で、スティーブン・キャラハンのヨット、ナポレオン・ソロ号は嵐の中、転覆しました。キャラハン(当時30歳)は一人で、ほんのわずかの物資と一緒に破損したいかだで漂流しているのに気づきました。飲むために雨水を集め、釣りをするため簡単なモリを作りました。フジツボを食べたり、時にはフジツボの残骸にひかれて集まって来る鳥を食べたりしました。正気を保つために、自分の経験についてノートをとったり、弱った体が許すときはいつでも運動をしたりしました。それ以外は、ただじっと待ち、西に漂流し続けました。76日後の4月21日、一隻の船がグアドループの沖でキャラハンを発見しました。今でも、キャラハンは一人だけで海で1か月もの間、生き延びた数少ない人のうちの1人です。

 キャラハンの著書『大西洋漂流76日間』の中で、この遭難からそんなに時間がたっていない時に、次のように心境を綴っています。「危険な海域で小さな船の船長でした。ソロ号を失った後の恐怖からは何とか逃れました。ほとんど確実な死を乗り越えていたのです。次に、選択しなければいけませんでした。自分自身を新しい人生に向けるのか、それともあきらめて、自分が死ぬのをじっと見ているのかの2つに1つです。できるだけ長い間、もがき続ける方を選びました」

Section 2

私たちのうちのほどんどの人がそのような深刻な状況を経験することはないでしょう。しかし、にもかかわらず毎日、自分で緊急に選択すべきことに直面しています。年、主な出来事、成功などのいろんな目印を使って人生を測定します。同じように、行った選択によって人生を測定できます。選択の合計が、私たちがどこにいようとも、誰であろうとも今の自分自身を私たちにもたらしてきています(→このような選択の総体が、今日の自分を形作ってきているのです)。この観点から人生を見ると、どのように生きるかを決める上で、他の何よりも強い力を持っているのが選択だと言えます。選択は私たち一人ひとりの生まれながらの欲望に直結しているからなのかもしれません。

 このことは、生まれて4か月のとても幼い乳児の実験によって示されました。研究者たちは乳児の手にひもをつけ、ひもを引けば楽しい音楽が鳴ることを覚えさせました。その後で、研究者たちはひもと(音楽が鳴ること)の関連を断ち切って、代わりに不規則な間隔で音楽を鳴らしました。そうすると、乳児たちは悲しくなり、怒りっぽくなりました。たとえ、音楽を自分で鳴らせていた時と同じ量の音楽を聞くように、実験が設計されていてもです。乳児たちはただ音楽を聞きたかっただけではないのです。音楽を選択する力が欲しかったのです。

Section 3

老人ホームでのもっと大きな研究もまた選択が重要だということを示しています。研究者たちは入居者を2つのグループに分けました。それから、老人ホームの職員の1人が第1のグループにこう言いました。「いくつかのことをすることは許されていますが、皆さんの暮らしを快適に保つ責任は職員の手の中にあります」 例えば、このグループはみんな植物を与えられましたが、看護師が高齢者に代わって植物の世話をするというものでした。それとは対照的に、第2のグループに対しては、職員は入居者が自分の植物を選ぶのを許し、自分で世話をするように言いました。自分たちの新しいホームを幸せな場所にするのは入居者の責任だとはっきりと示しました。

伝えたことが違っていたにもかかわらず、職員は2つのグループの入居者をまったく同じように扱いました。さらに、みんなが植物を手に入れたのですから、第2グループに与えられていた選択は、見たところささいなことのように思えました。しかし、3週間後に調べてみると、第2グループの入居者の方が(第1グループの入居者)より健康で幸せで活動的だとわかりました。

(自分で植物を選び、世話をするという)象徴的な選択を与えられただけだということを考えると、選べると感じられるのかどうかが、自分で周囲の状況をコントロールできると感じられるかどうかに不釣り合いなくらい大きく決定的な影響力を持ちうる、ということをこの研究は示しています。

Section 4

さらに、選択という時に、実は、自分自身と周囲の状況に対してコントロールできる能力について話をしていることになります。キャラハンの話しがここで思い出されるべきです。キャラハンは選択という立場から自分の状況を見ました。果てしない青い海の表面しか見えなかったけれども、そしてこの海面の下には多くの危険が潜んでいたのですが、キャラハンは死刑宣告を聞かないで、「生きたいか?」という問いかけを聞いたのです。この問いかけを聞く能力、そして、この問いかけにYesと答える能力――周囲の状況が取りあげてしまっていると思えたような選択(=生きることの選択)を自分の力で取り戻すこと――が、キャラハンが生存できた理由なのかもしれません。

困難に立ち向かう時に、キャラハンの話しは勇気づけてくれ、何か大切なものを語りかけています。たとえ選択の余地が全くないように思えても、選択は可能だと最初に受け止めなければいけません。実際、どのくらいたくさんの選択を厳密に言って持っているのかということは、どのくらいたくさんの選択を持っているのと感じるのかということよりもはるかに重要度が劣るのです(→実際には、どれだけ選択の幅があると感じているのかの方が、厳密にどれだけ選択の幅があるのかよりもずっと大切です)。――人がコントロールできると感じ取ることは外的な力によって完全に決定されるわけではないのです。精神の力を信じなくなってはいけません。見たところ手に負えないような状況に置かれている時でも、世界を見る方法を変えることで選択(の余地)を作り出す能力を持っているのです。