わやくの部屋

UNICORN 2 -Lesson 6

Just My Type
私にぴったりのタイプ=書体

Section 1

2005年6月12日、50歳の男性がスタンフォード大学で大勢の学生の前で立ち上がって、自身の学生時代について話しました。彼は次のように思い出しました。「キャンパス中のどのポスターも、どの引き出しのどの表示もきれいに手書きされたものでした(→手書きされていました)。私は(もう既に)中退していて、正規の授業をとる必要がなかったので、どうすればきれいな手書き文字が書けるのか学ぶために書道の授業を受けることにしました。何が偉大なタイポグラフィーを偉大にしているのか(→なぜ一流のタイポグラフィーが立派に見えるのか)について学びました。科学では捕えられないような方法で、タイポグラフィーは美しく、歴史があり、芸術的に繊細でした。タイポグラフィーは魅力的だと気づきました。」

授業に出ながら、この中退した(もぐりの)学生は、学んでいることが人生で役に立つ使い道があるなんて、これっぽっちも考えていませんでした。しかし、事態は変わりました。大学を中退して10年後にスティーブ・ジョブズという名前のその男性は、最初のマッキントッシュ・コンピューターを設計しました。システムにインストールされている多くの異なるフォントがありました(→システムにはたくさんの種類のフォントがインストールされていました)――当時としては全く新しいものでした(→画期的でした)。

それは文字と活字の日常的な関係における完璧な転換(→関係を全く変えてしまうもの)でした。10年位すると、その革新のおかげで技術専門用語の「フォント」がコンピューター・ユーザー全員の(→どのコンピューター・ユーザーにもなじみ深い)語彙になりました。

Section 2

しかし、書体を選ぶとき、何を本当に伝えている(→伝えたい)のでしょうか? 書体選択の背後には何があり、どんな効果を狙っているのでしょうか? 誰がこうしたフォントを作るのでしょうか? 例をいくつか見てみましょう。

1957年頃、スイスで考案されたヘルベチカは、今では、世界で一番人気のあるフォントの1つになってきています。数年前、1人のニューヨーカーがヘルベチカなしで1日を過ごそうと果敢にも挑戦しました。ベッドから這い出すとすぐに困難が始まりました。着るものほとんどにヘルベチカの洗濯表示が付いていて、表示のない服を見つけるのに悪戦苦闘するのでした。朝食には、日本茶と果物を少しとりました。ヘルベチカのラベルが貼ってある、いつも食べるヨーグルトは食べませんでした。ニューヨークタイムズ紙に載っている表はヘルベチカで組まれているので、タイムズ紙は読めませんでした。

現代のタイプ字に求められる、とても多くの要求を満たしているからなのでしょう、ヘルベチカはどこにでも使われています。一番明確な方法で大切な情報を表現するきれいな、役に立つフォントとして(の機能)だけ意図されていて、ヘルベチカは誠実さを伝え、信頼感を誘い、人なつっこい素朴さを保つことに成功してもいます。そういう理由で銀行や航空会社のような数多くの企業がヘルベチカを会社のロゴに使っているのです。

Section 3

フツーラ(パウル・レナーの最高に不朽の作品)はすべてのドイツ製フォントの中で一番よく知られたものです。フツーラは future (未来)を意味するラテン語であるにもかかわらず、(何と)1924年までさかのぼれます。レナーはフランクフルトアムマインで働く、タイポグラファー(活字技術者)であると同時に画家でもあります。出版社から芸術的に解放感を与える(→芸術性があり既存の枠を打ち破るような)フォントを考案するように依頼されました。最初の案で、新しいフォントを使って実験するために選んだ言葉は「現代の活字体」でした。

レナーは初期の(数種類の)案を他のデザイナーたちに見せました。その影響は瞬く間でした。案を改良しているうちに、たくさんのよく似た活字体が街に現れていることに気づきました。しかし、こうした模倣フォントが現れること(こそ)がいかにフツーラが時流によく合ったものなのかの証拠でした。80年以上も前に(作成を)依頼されたものですが、フツーラは依然として現代的に見えます。今では地球上のどこでもフツーラを見つけられます――(これこそが)レナーの「未来」です(→だったのでしょう)。

しかし、レナーのフォントが登場する一番有名な場面は宇宙です――十分似つかわしい場所です。アポロ11号の宇宙飛行士は月面で石を集め、旗を立てただけではありませんでした。フツーラの大文字で書かれた銘板を(月面に)残してきたのです。(フツーラという「未来」を意味する)名前が飛行計画に合致していたからなのかそれとも、ヒューストンの職員がフツーラを印刷の理由のために積極的な選択にした(→スタッフがタイポグラフィーの理由から(=書体が美しいからとかいくつかの理由から)フツーラを積極的に選んだものな)のか? 誰が知りえましょうか? ただ、この選択は正しかったように思えます。

Section 4

今、読んでいるまさにこの段落はサボンで組まれています。サボンもやはりドイツ生まれです。サボンは世界で一番美しい書体ではないし、一番独創的な書体でも、一番印象的な書体でもありません。しかし、サボンはすべての書籍用フォントの中で一番読みやすいものの一つだと考えられています。

早くも1920年代には、タイポグラファー(活字技術者)のヤン・チヒョルトは、新しいタイポグラフィーには明晰性が一番大切だと考えていました。主な目的が美的効果を与えることだった古いタイポグラフィーとは対照的でした。注意を喚起するために大きな声を張り上げる、とてもたくさんの印刷物に自分自身が囲まれている、とヤンは気づいていました。求められているのは、たやすく素早く読める、単純・素朴で明瞭なフォントだ、と信じていました。ついに1960年代に、サボンをデザインしました。

ヨハネス・グーテンベルク以来560年経って、世界中で10万以上のフォントがありますが、依然として新しいフォントを開発中です。1968年、人気のあるグラフィックデザインの雑誌はこう質問しました。「ヘルベチカかとかサボンのような、こうした新しいフォントがなぜ必要なのか?」 昔も今も答えは同じです。世界と世界の中身は常に変化しています。新しい方法で自己を表現する必要があるのです。