わやくの部屋

PRO-VISION 1 -Lesson 9

Snow Crystals ― Winter’s Miracles of Beauty
雪の結晶――冬の美の奇跡
Like a great poet, nature knows how to produce the greatest effects with the most limited means. ― Heinrich Heine
偉大なる詩人同様、自然は最小の手段で最大の効果を得る方法を心得ている。――ハインリッヒ・ハイネ

Section 1

寒い冬の日に雪が降っているところを想像してみてください。見上げると、空から何百万という小さな氷の彫刻が降ってきているのが見えます。こうした彫刻、すなわち雪の結晶(スノーフレークとも呼ばれます)のどれもが、数㎜より小さい芸術作品なのです。雪の中で遊んでいる間に、手の上で雪の結晶のうちのいくつかを念入りに見ると、驚くほど複雑で美しい形をしているのに気づきます。

左右のページの写真を見てください。この写真は雪の結晶の例です。この写真の結晶のように、ほぼ完ぺきな対称性を持つ雪の結晶もあります。しかし、厳密に同じ形をした雪の結晶は2つとありません。

19世紀に生きたアメリカの自然主義者であり作家でもあるヘンリー・デイビッド・ソローは、氷が作りだすこのような完璧に形作られた傑作の美しさを賞賛しました。大気は、このような星の形をした結晶を作る「創造的天賦の才」にあふれているに違いないと述べています。

もちろん、雪の結晶のデザインは計画から生じたもの(→計画されたもの)ではありませんし、遺伝子に基づく生物でもありません。雲から落ちてきた凍った水のかけらにすぎないのです。雪の結晶は数えきれないほど多くの種類の美しい形でやって来ます(→雪の結晶には美しい形の種類がとても豊富です)。しかし、どのようにして雪の結晶は形作られるのでしょうか?

Section 2

雪の結晶は数千メートル上空にある雲の中で生まれます。まず第1に、小さな水滴が凍って、6つの辺を持った氷の結晶になります。約0.01㎜の大きさの「雪の結晶の赤ん坊」です。それから、水蒸気がこの結晶にくっつき、大きく、重くなっていきます。結晶は雲を通って落ちながら、数㎜の大きさに成長します。結晶が生まれた時から地上に落ちてくるまでに約1時間かかります。

単純な6角形の形から始まって、雪の結晶は成長して独自のユニークな形になります。形を決める要素は主に2つあります。1つは雲の内部の気温です。気温に応じて、雪の結晶は広がってお皿のような形になったり、長く伸びて円柱のような形になったりします。もう一つの要素は、結晶を取り囲む水蒸気の量です。水蒸気がたくさんあればあるほど、結晶の形は複雑になって行きます。

Section 3

どのようにして雪の結晶が形作られるのかを発見するのに大きな貢献をしたのは、日本の科学者中谷宇吉郎でした。1932年、天然の雪の結晶を観察し始めました。約3,000枚の雪の結晶の写真を撮り、すべての主要な形を分類しました。次に、異なった結晶の形が作られるのはどのような条件の下でなのかを調べるために、人工の雪の結晶を作ろうと決めました。

雪の結晶を作るのは簡単ではありませんでした。3年間熱心に研究した後で、中谷博士はこの実験のための独自の装置を作りました。この装置を使って、マイナス30度に温度設定された低温実験室の中で実験を繰り返しました。1936年、ついに世界で最初に、ウサギの毛にくっついた人工の雪の結晶を作ることに成功しました。

温度と水蒸気の量を変えることによって、中谷博士は多くの異なる種類の雪の結晶を作ることができました。博士は実験の結果を1つの図に示しました。この図は「中谷ダイヤグラム」として世界中で知られています。この図を見ることによって、どのような条件下でどのような種類の雪の結晶が形作られるのかを見ることができます。雪の結晶の形は、空の状態について教えてくれるのです。「雪の結晶は空からの手紙だ」と中谷博士は述べています。

Section 4

雪の結晶の複雑で美しい形は、長い間、科学者たちを魅了してきています。科学者たちの研究のおかげで、雪の結晶がどのようにして形作られるのかわかっています。雪の結晶は、芸術家や職人も魅了してきています。雪の結晶に触発された図柄のデザインが、芸術作品や工芸品で使われるようになりました。雪の結晶の柔らかな優雅さは、人々の生活に美を付け加えてくれています。

日本では『雪華図説』と呼ばれる雪の結晶に関する解説本が1832年に出版され、江戸時代後期に雪の結晶の模様は人気となりました。こうした結晶の模様はおわん、お皿、着物、浮世絵に見られるようになりました。今日でさえ、雪の結晶の模様は宝石類、服、その他のいろんなものに現れています。雪がたくさん降る地域では、学校の校章に雪の結晶の図案を見ることができます。

雪の結晶は、歴史を通じて人々の心を動かしてきています。雪の結晶の魅力は、アメリカの農夫で雪の結晶の写真家のウィルソン・ベントレーによって一番上手に表現されたかもしれません。「顕微鏡で(→顕微鏡を使って細かいところまで見ることで)、雪の結晶は美の奇跡だということを見つけた。どの結晶もデザインの傑作だし、どのデザインも決して繰り返されなかった。雪の結晶がとけると、そのデザインは永遠に失われた。小さな美は、後に何も記録を残さないでなくなってしまった」

今度、雪が降った時には、よく見て、こうした氷の傑作の美しさに惚れ惚れするチャンスがあるでしょう。「美の奇跡」はドアのすぐ外で待っているのです。