わやくの部屋

PRO-VISION 1 -Lesson 7

The Power of Music to Change Young Lives
若者の生活を一変させる音楽の力

If music be the food of love, play on.――William Shakespeare
音楽が恋の糧であるなら、続けてくれ。――ウィリアム・シェイクスピア

Section 1

楽器を持ち運ぶ子供たちは、ベネズエラのどの町でも(見られる)毎日の午後の見慣れた光景です。普通の学校の時間が終わった後に、音楽のレッスンに向かっているのです。ベネズエラの端から端までで180の音楽学校があり、35万人の子供たちが無料でクラッシック音楽の教育を受けています。そうした子供たちのうちの多くが週6日練習し、オーケストラやコーラスに参加しています。

この教育プログラムはエル・システマとして一般に知られています。アブレウ博士が1975年に始めました。博士はベネズエラの文化大臣を務めたこともある、音楽家で経済学者です。35年以上の歴史の間に、エル・システマはたくさんの優秀な音楽家を輩出し、そのうちの何人かは世界的に有名になっています。

しかし、プロの音楽家を養成することがエル・システマの主な目標なのではありません。エル・システマの使命は、音楽の力を使ってよりよい生活を送るチャンスを子供たちに与えることだけです。「音楽がもたらす豊かさは貧困を打ち破ることができます」とアブレウ博士は言います。

Section 2

エル・システマはまた、貧しい家庭の子供たちが犯罪に巻き込まれるのを防ぐ砦としても役に立っています。エディクソンがその例です。9歳になるまで、カラカスの犯罪多発地帯のスラム街で家族と一緒に貧困のうちに生活していました。その時、お隣りさんがエル・システマを勧めてくれました。演奏することを運命づけられていたように思える楽器と、このようにして出会いました。

「最初にコントラバスの音を聞いた時、『これだ!』と思いました。僕のための楽器だとわかりました!」とエディクソンは言います。楽譜をきちんと読めないうちに、チャイコフスキーの交響曲のコントラバスのパートを演奏するように頼まれました。「冗談を言ってるんだと思いました。でも、僕には無理だとは誰も言いませんでした。オーケストラの人は誰も『できない』とは決して言いませんでした」

その後、エディクソンは毎日一生懸命に練習しました。エル・システマによって立ち上げられたすべてのオーケストラの中で一番立派なベネズエラ国立シモン・ボリバル交響楽団の最高の演奏家に上り詰めました。ついには、世界的に有名なドイツの交響楽団ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラにこれまでに参加した一番若い演奏家になりました。エル・システマのことを聞く前にエディクソンが知っていたのは、ロック音楽だけでした。しかし、エル・システマでのクラッシク音楽の経験とオーケストラで演奏することが人生を完全に変えたのです。

Section 3

助けを必要とする1人の若い男の子が、音楽の力を信じている人たちと音楽のおかげで、人生をやり直すチャンスを与えられました。

その子の名前はレナーです。貧しい地域で育ち、犯罪生活に陥るほかありませんでした。警察に逮捕され、青少年更生施設に送られました。誰ももう信用してくれない、社会は自分を必要としていないと確信していました。そんな時、ある日、エル・システマの音楽の先生がレナーに楽器をあげました。新しい生活を始めるのに必要なチャンスでした。

「エル・システマのプログラムが大きなドアを開けてくれました。楽器から愛まで、すべてを与えてくれました。愛は当時の僕に一番必要なものでした。誰もがみんなこの恩恵を受けるべきだと思います」とレナーは言います。レナーは楽器に触り始める前は、手に銃を持っていました。今ではエル・システマの音楽の先生です。自分がかつていた環境と似た環境にいる子供たちに、今、音楽の世界を紹介しています。

Section 4

これはアブレウ博士がエル・システマ音楽教育計画の基本的考えを言い表す方法です。オーケストラのメンバーとして一緒に一生懸命に活動し、何か芸術的なものを作りだそうとすることによって、子供たちは努力をすることの大切さを学び、協力の精神を伸ばすのです。

この子供たちは、家族やご近所さんたちにもいい影響を与えます。例えば1つの家族では、わが子が持てるものすべてを音楽につぎ込んでいるのを見て、お父さんはお酒を飲むのをやめました。また、その男の子のお兄さんは高校を中退していたのですが、もう一度、勉強を始めるように元気づけられました。成功へのカギは、どこでたまたま育ったのかではなく、身も心もやっていることに注ぎ込むことだということを、お兄さんは弟から学んだのです。

ベネズエラの1人の人が植えた種は、今や強い根をもつ1本の壮大な木に育ったのです。エル・システマは実を結び始め、エル・システマの種が国境を越えて育ち始めています。エル・システマをお手本にした教育プログラムが、ラテンアメリカの多くの国々、米国、ヨーロッパでどんどん生まれてきています。