わやくの部屋

POLESTAR 1 -Lesson 9

“Emily Post Wouldn’t Like It”
「エミリー・ポストなら気に入らないでしょう」

アメリカの文化で、していいこととしてはいけないことは何でしょうか? 疑問に思ったら、答えを探すためにエミリー・ポストの本を見ればいいのです。

Section 1

今までにエミリー・ポストという名前を聞いたことがありますか? アメリカの人は「エミリー・ポストならまったく気に入らないだろうね」とか「エミリー・ポストなら賛成しないだろうね」とか言って、エミリー・ポストの名前を使います。アメリカの人は、このような表現を使って、特定の種類の行動がエチケットのルールに反していることを指摘します。

エミリー・ポスト(1872―1960)はアメリカ人著述家でした。エミリー・ポストは『社会、仕事、政治、家庭でのエミリー・ポストのエチケット』(1922)を書いたことで、全米で有名です。この本は良い振る舞いに関する一番よく売れる教本の中の1冊(→エチケット関連で一番の売れ筋ハウツー本の1冊)です。彼女の死んだ後でも、この本は何度も改訂されました。2011年には第18版が出版されました。

この本は私たちに日常の生活と、特別な場面の両方でどのように振る舞うべきかを教えてくれます。例えば、結婚式では何を着るべきか、家にお客さんを招待する前に何をすればいいのか、他の人の家ではどのように振る舞えばいいのかについてアドバイスしてくれます。

Section 2

この本はいろんなテーマを網羅しているから面白いのです。また、新しい版になると、アドバイスが少し変わるのを見るのも興味深いものです。

例えば、1969年版には、男性が通りで女性に話しかけるときの振る舞いに関する指示が載っています。この本によると、女性に話しかけるために街中の通りで立ち止まる男性は次のようにすべきです。第1に、帽子を取ること。もしタバコを吸っていれば、タバコやパイプを(相手の迷惑にならないように)しまうべきです。左手にタバコ(あるいはパイプ)と帽子を持たなければいけません。それから、右手の手袋を取り、女性に右手を差し伸べるべきなのです。

今までに男性が帽子をかぶって、タバコを吸いながら歩いているのを見たことはありますか? 今までにそうした男性が通りで女性に話しかけているのを見たことはありますか? ほとんどの人は「見たことない」と答えるでしょう。

Section 3

時が経つにつれて、新しいテーマが本に登場します。1990年代発行の版では、(女性の名前につける敬称の)Mrs.とMissとMs.の使い方を論じています。Ms.はMizzと発音され、とても役に立つ敬称だと書いてあります。その女性が結婚しているのかしていないのかわからないときに、Ms.を使うことができます。さらに、Missだれだれと呼ばれるのも、Mrs.だれだれと呼ばれるのもどちらも嫌だという女性がいます。そうした女性にとっては、Ms.は自己紹介をするときに役に立つ呼び方です。

2004年の版は、エミリーの義理のひ孫さんにあたるペギー・ポストさんによって編集されました。初版よりも267ページ長くなっています。デートではだれがお金を払うべきかといった扱いにくい問題について論じています。昔は、お金を払うのはたいてい男性の方でした。2004年版の指示では「少なくとも最初のデートでは、出費を分け合うと2人があらかじめ合意していない限りは、誘った方が払うべきだ」そうです。

Section 4

2004年版では、メールのエチケットのような現代風テーマを含んでいます。「人の触れ合いが依然として大切だ」とか、メールのやり取りは(人と人の)個人的な交流に取って代わることはできないということを思い出させてくれます。また、メールにどのくらい素早く返事を出すべきかについて教えてくれます。個人的な通信であれば1両日中に返事を出すべきで、仕事のメールであれば事の緊急性に応じて24時間以内に出すべきだと提案しています。

これまで見てきたように、エチケットに関する人々の考えは、時をかけて徐々に変わる可能性があります。しかし、『エミリー・ポストのエチケット』は、いつ(の時代であって)も覚えておく価値のある特定の点があるということを教えてくれます。例えば、(メールのやり取りが既に普及していた)2004年版であっても、親切にしてくれた人への感謝の(簡潔な)手紙を書く大切さについて述べてあります。この習慣は何十年もの間大切だと考えられてきていますし、これから何年もの間きっとそのまま当てはまることでしょう。

私たちが社会で生きていく限りは(→社会生活を営む限りは)、良いエチケットは毎日どこででも必要とされます。良いエチケットがなければ、他の人と快適に幸せに暮らすことは不可能なことでしょう。