わやくの部屋

ELEMENT 1 -Lesson 9

Bopsy
ボプシー

Section 1

26歳の母親は、白血病で死の床についている息子を見下ろした。

彼女の心は悲しみでいっぱいだったが、強い決意の気持ちも持っていた。

すべての親同様に、彼女は息子に成長してすべての夢をかなえてほしいと思っていた。

今ではそれはもう不可能なように思われた。

白血病次第だが、彼女はそれでも息子の夢をかなえてやりたかった。

Section 2

彼女は息子の手を取ってたずねた。

「ボプシー、大きくなったら何になりたいか、考えたことはある?あなたの人生をどうしたいかについて、これまでに夢見たり願ったりしたことは?」

「お母さん、ぼくは消防士になれたらなあって思っているよ。」

Section 3

母親はほほ笑み返して言った。

「あなたの願いをかなえられるかどうか確かめてみましょう。」

その日のうちに、彼女はアリゾナ州フェニックスにある地元の消防署に行った。

彼女はそこで消防士のボブに会ったが、彼はフェニックスと同じくらい広い心を持つ人だった。

彼女は息子の最後の願いについて説明し、彼女の6歳の息子を消防車に乗せて街を回ることができるかどうかたずねた。

Section 4

消防士のボブは言った。

「あのですね、もっといいことができますよ。

水曜日の朝7時に、息子さんの支度を済ませておいてくだされば、ぼくたちが彼をその日じゅう、1日限定消防士にしましょう。

彼には消防署に来て、ぼくたちと食事をして、すべての火事の通報に出動して、何もかもやってもらいます!

そして、もし彼の服のサイズを教えていただければ、彼のために本物の消防士のユニフォームを作らせましょう。

本物の防火ヘルメットをね――おもちゃじゃないですよ――フェニックス消防署の記章が付いたやつと、ぼくたちが着ているような黄色のコートとゴム長靴もお付けします。

それらはすべて、まさにここフェニックスで生産されていますので、すぐに手に入りますよ。」

Section 5

3日後、消防士のボブはボプシーを迎えに行くと、彼を消防士のユニフォームに着替えさせ、病院のベッドから、待機していたはしご付き消防車へと連れて行った。

ボプシーはトラックの後ろに座らせてもらって、まるで彼が署長であるかのように消防署に戻った。

彼は天にも昇るような心地だった。

Section 6

その日フェニックスでは3回の火事の通報が入り、それらすべてにボプシーは出動させてもらった。

彼はさまざまな消防車や救急車、署長の車にまで乗り込んだ。

地元のニュース番組にも出演した。

Section 7

彼は母親と消防士たちがしてくれたことにとても感動して、どの医師が考えていたよりも3か月長く生きた。

Section 8

ある夜、彼のすべての生命徴候が大きく落ち込み始めたが、看護師長はだれも1人で死ぬべきではないというホスピスの概念を信じていたので、ボプシーの家族を病院に呼び寄せ始めた。

そのとき、彼女はボプシーが消防士として過ごした日のことを思い出し、消防署長にも電話をして、ボプシーがこの世から旅立つときに彼のそばにいるために、ユニフォームを着た消防士を1人、病院によこしてもらえないかどうかたずねた。

署長はこう答えた。

「もっといいことができますよ。

今から5分でそこに着きます。

ちょっとお願いしてもよろしいですか。

サイレンが鳴っているのが聞こえて、ライトが光っているのが見えたら、火事は起こっていないことを院内放送でアナウンスしてもらえませんか。

消防署が最高の仲間の1人にもう一度会いに来ているのだと、病院の人たちに言ってください。

それから、彼の部屋に通じる窓を開けておいてもらえませんか。よろしくお願いします。」

Section 9

約5分後、はしご付き消防車が病院に到着して、ボプシーのいる3階の窓にはしごを伸ばした。

窓は開いていた。

ボブ消防士が部屋に乗り込んでいった。

すると、ほかの消防士が1人ずつボプシーのいる3階の窓まで上ってきて彼に手を振った。

Section 10

ボプシーはとても喜んだ。

彼は母親のほうを見上げた。

「ねえ、お母さん。」と彼は言った。

「すごくあの人たちに会いに行きたいよ。あそこでぼくの仲間と一緒にいたい。」

ボプシーが車椅子で階下へ連れられていくと、彼は第一消防署の隊員と、「ボプシー1号」を意味する「B1」と改名されたトラックに迎えられた。

すると、隊員がはしごを出し、行ける限り高いところまでそれを上げた。

隊員の1人がその頂上に登った。

「それはまるで、『見てごらん。君は天国へ行く途中なんだよ。』と彼が言っているように見えました。」とボプシーの母親は思い返した。

Section 11

見舞いが終わりに近づくころ、ボプシーは消防士のボブを振り返った。

「ぼくは本物の消防士なの?」と彼はたずねた。

「ああ、そうだよ。」とボブは答えた。

「もちろん君は本物の消防士だ。」

翌朝、ボプシーは亡くなった。

Section 12

ボプシーの母親は今でも、ボプシーが亡くなる数週間前のそのときのことをよく思い出す。

そのとき、彼は自分の容体について母親がどれほど心配しているかに気づいていたようで、彼女を慰めようとした。

「ぼくは大丈夫だよ。ぼくはいつまでもお母さんの守護天使だよ。」と彼は彼女に言った。

「ぼくは銀河の一部、空の一部になって、お母さんのことを見守るからね。」

そして、彼は実際そうしてくれている。

ボプシーの母親は言う。「私の息子は、とても多くの人々の心の中で元気に生きています。」と。