わやくの部屋

ELEMENT 1 -Lesson 8

The Power of Presentation
プレゼンテーションの力

Section 1

「2020年第32回オリンピックの都市は…東京に決定します!」 これが発表されたとき、東京オリンピック委員会の全員が飛び上がって歓喜の声を上げた。

しかしながら、オリンピックを開催するための競争は、簡単なものではなかった。

最終プレゼンテーション以前、マドリード、イスタンブール、東京の各都市は、長所と短所を持ち合わせていた。

どの都市が勝つのかだれもわからなかったので、最終プレゼンテーションがますます重要になっていた。

日本の発表者は、どのようにして目標を達成したのだろうか。

Section 2

委員会は、イギリス人のプレゼンテーション顧問であるニック・ヴァーリーを招へいした。

彼は、ロンドンが2012年オリンピックの開催地に選ばれるのを手助けしたメンバーの1人だった。

ニックは、かかわる人数や金額が世界最大のものであるため、オリンピックを開催するための宣伝活動は、世界最大のプレゼンテーションだと考えている。

さらにそれは、各国が世界に向けて、その国自体と文化を紹介する絶好の機会だ。

ニックは、日本には多くの長所があるが、それらをプレゼンするのは苦手だと思っていたので、日本の委員会に助言することにした。

Section 3

ニックは、佐藤真海さんを最初の発表者に選んだ。

彼女はパラリンピック選手であり、東日本大震災で被災したこともあった。

彼女のスピーチの題目は「スポーツの力」だった。

彼女は、自らのがんと地震という困難を乗り越えるのに役立った力を実際に証明して見せていたために、このスピーチをするのに最適な人物であった。

Section 4

もちろん、彼女は決してプロの話し手というわけではなかった。

しかしながら、彼女の良いところは、運動選手としてつらい練習に慣れていたことだった。

4分間のスピーチのために、彼女は最終プレゼンテーションまでの数週間、1日数時間練習した。

ニックはこう言った。「準備をしないことは、失敗する準備をしているのと同じである。」と。

懸命な努力のおかげで、2020年オリンピックに対する彼女の本当の気持ちが、聞き手の心に届いたのだった。

Section 5

滝川クリステルさんが使った「お・も・て・な・し」ということばを、あなたは覚えているかもしれない。

このことばは日本人にも強い影響を与え、2013年に最も人気のあったことばの1つに選ばれた。

彼女のスピーチに、なぜこの日本語が選ばれたのだろうか。

Section 6

ニックが日本を訪れたとき、彼は、滞在中に示された思いやりにとても感銘を受けた。

この思いやりは、日本人の間で「おもてなし」と呼ばれていると教わったので、彼は、「おもてなし」という考えをプレゼンテーションで使うことにした。

彼はそのことばを英語とフランス語に翻訳しようとしたが、結局できなかった。

もしもそのことばが他言語に翻訳されれば、それが本来持つ意味は失われるだろう。

Section 7

スピーチの中で、滝川さんは「お・も・て・な・し」というように、ジェスチャーを交えて1文字ずつその日本語のことばを言った。

このような言い方は、聞き手に強い影響を与えた。結果として彼女は注目を集めることに成功し、「おもてなし」ということばは日本チームのテーマになった。

Section 8

4番目の発表者である太田雄貴さんがプレゼンテーションを行ったとき、彼には2つの重要な役割があった。

1つは、日本の弱点である、ほかの2つの都市よりも地元の人々からの支持が少ないという点を克服することであった。

彼は、2012年ロンドン・オリンピックに参加した日本人選手たちのためのパレードについて話した。

平日のことだったにもかかわらず、50万人がそのパレードを見るために集まった。

日本人は、ほかの2か国の人々とまったく同じくらいオリンピックを強く支持することを、太田さんは示したのだった。

Section 9

もう1つは、2020年東京オリンピックを聴衆に想像させることだった。

太田さんは、選手たちが部屋から見るであろう海の写真を使い、「あの都市の中心で暮らすことを想像してみてください」ということばでスピーチを始めた。

彼は、新しい画像をスクリーンに映しながら、「想像してみてください」ということばを3回繰り返した。

ここで、彼は3が持つ力を利用した。

プレゼンテーションでは、3つの論点や3つの例を示すことが効果的だと言われている。

そういった印象的な写真と映像を用いて、太田さんは2020年東京オリンピックのイメージを、聴衆の心にうまく作り出したのだった。