わやくの部屋

ELEMENT 3 -Lesson 8


The Mpemba Effect
ムペンバ効果

Section 1

「僕の名前はエラスト・B・ムペンバです。間違った冷蔵庫の使用法から見つけた僕の発見についてお話します」
この言葉から、タンザニアの生徒エラスト・ムペンバ君は科学の歴史に入ってきました。そしてまた約40年後の今でもまだ続く、科学的な神秘でもある論争に火をつけました。

Section 2

この時ムペンバ君が見つけた現象は「ムペンバ効果」として知られています。特定の状況の下では、(液体は)非常に熱く、あるいは沸騰しているものです。しかしある量の液体は、同じ量の冷たい液体よりも速く凍ることがあるという事は、とても直感には受け止めにくい考えです。

Section 3

この現象はどのような機構から可能になるのでしょうか? 最初の観察が、1969年に科学界に報告されたにも関わらず、驚くべきことに本当のことは未だに解明されていません。発見の物語と、当然の結果として生じる不思議さの物語は、調べてみる価値があります。ムペンバ効果は科学的発見の本質と方法について多くの大切な教訓を与えてくれます。

Section 4

ムペンバ君は、1963年にタンザニアで偶然この現象を発見をしました。ムペンバ君は13歳の中学生でした。アイスクリームを最初から作ることは、ムペンバ君の年ごろの男子がよく行っていました。牛乳を沸騰させ、砂糖を混ぜ、それから冷蔵庫の冷凍庫の部分にこの混合物を置いたものでした。いつもは、この混合物は、最初に室温までモジョモジョ冷ましておくのでした。冷蔵庫に沸騰している混合物を置くことは、冷蔵庫を傷めて、ひいては壊れる原因になる恐れがあるためです。しかし、冷凍庫の限られた空間は生徒たちの競争を引き起こしました(→冷凍庫の空間は限られていますから、生徒たちは先を争って場所取りをしました)。

Section 5

「ある日、地元の女の人から牛乳を買ってから、牛乳を沸騰させ始めました。アイスクリームを作るために牛乳を買っていたもう1人の男の子が、僕が牛乳を沸騰させているのを見て、冷蔵庫へ走って行きました。その子は、牛乳を沸騰させないで、素早く牛乳に砂糖を混ぜ、製氷皿に注ぎました。チャンスを逃さないためでした。もし僕が冷蔵庫に入れる前に沸騰させた牛乳が冷めるのを待っていると、最後に(1個だけ残っている)利用できる製氷皿を失ってしまうと、僕にはわかっていたので、熱い牛乳を冷蔵庫に入れて、その日、冷蔵庫をアラアラ駄目にしてしまう危険を冒す決心をしました。その子と僕は1時間半後に戻って行くと、僕の製氷皿の牛乳はアイスクリームに凍っていたのに、その子のはまだ凍っていなくて、まだドロドロの液体のままだったのがわかりました。物理の先生に、なぜ熱い牛乳が速く凍るというそんなことが起きるのか聞きました。先生の答えは僕を困惑させるものでした。そんなことが起こるはずがないというものだったのでした。そのときは、先生の答えを信じました」

Section 6

ムペンバ君が高校に進むと、同じ質問をもう一度、先生にすることにしました。しかし、その先生の反応もあまり元気づけてくれるものではありませんでした。先生は、「私に言える答えは、君を困惑させた(のと同じ)ものだよ」と言いました。ムペンバ君が質問し続けると、ムペンバ君が受け取った最後の答えは、「いいだろう、私にパラパラ言えるのは、それはムペンバの物理であって、普遍的な物理ではないということだけだ」というものでした。それからは、ムペンバ君が授業中に問題で間違うと、その先生は「それはムペンバの数学だ」と言いました。

Section 7

ここで、この高校の先生は生徒を馬鹿にすることで、とんでもない失敗をしました。人が科学の教室で行えるうちで断然一番悪いことです。幸運なことに、ムペンバ君は諦めませんでした。ある日の午後、生物実験室がオープンするとわかったときに、ムペンバ君は2つのビーカーを、1つは沸騰している水で、2本目は水道水でいっぱいにして、実験室の冷蔵庫で2つを凍らせました。1時間後に戻ってくると、沸騰した水を入れていた方のビーカーに(水道水を入れた方のビーカー)よりたくさんの氷があるのがわかりました。ムペンバ君の実験のこの示唆に富む結果で、チャンスがあれば、もう1度やってみようと決めたのでした。

Section 8

しかし、チャンスが来る前に、ダルエスサラームの大学付属のカレッジからオズボーン教授が物理について話をしに来ました。ムペンバ君はこのテーマの専門家に話をするチャンスを手にしたのでした。ムペンバ君は中学の先生と高校の先生にした質問を繰り返しました。しかし、今度は違った反応がありました。

Section 9

「教授は最初ににっこりと笑って、僕に質問をもう1度言ってほしいと言いました。僕が繰り返した後、教授は『本当かね? 自分で実際にやってみたことがあるのかね?』と言いました。僕は『はい、あります』と答えました。そうすると、教授は、『わからないなぁ、でもダルエスサラームに戻ったらこの実験をやってみると約束しよう』と言いました。次の日、僕のクラスメートは僕に、あんな質問をして僕がみんなに恥をかかせた、僕の目的はオズボーン教授が答えられない質問をすることだったんだと、言いました」

Section 10

しかし、オズボーン教授は約束通りに、戻って自分で実験をしてみました。教授の見つけた結果は、20℃までの温度では、(氷になるまでに)かかる時間は凍るまでの温度(=水の温度-0℃=水の温度)にほぼ比例し、20℃で最大100分かかる、しかし、(20℃よりも)高い温度では、(氷になるまでに)かかる時間は劇的に下がって、80℃の水では40分まで短くなる、というものでした。

Section 11

この効果に関する後の実験は、ムペンバ君とオズボーン教授の実験ほど明確ではありません。同じような結果になる実験もあれば、まったく効果が観察されない実験もあります。ムペンバ効果は、特定の実験の状況によるように(→個別の実験環境によって異なるように)思えます。このために、物理学者の中には、ムペンバ効果が本当に存在するのかどうかについてマイマイ懐疑的な人もいます。そういう人たちは、次のように、無理のない主張をします。「1つには100℃の水が、もう1つには30℃の水が入った、まったく同じ2つのコップを持っていると仮定してみましょう。100℃の水が凍るためには、まず30℃まで冷めなければいけません。したがって、100℃の水が凍るのにかかる時間は、30℃から0℃になるのにかかる時間に加えて、100℃から30℃になるのにかかる時間の合計になります。したがって、30℃の水よりも凍るのに長い時間がかかるに違いありません」

Section 12

しかし、この主張にある欠点は、水の塊が1つの尺度、すなわち、熱によってのみ特徴づけられると想定していることです。一般的には、熱を加えたために変化する可能性のある水の他の特徴もあります。例えば、溶液中の気体の量や、他の溶質の存在や、対流の存在や、容器の異なる場所の間にある温度のカナカナ変化率の違いです。実際は、こうしたもののうちのいくつか、あるいは、すべてが答えなのかもしれませんし、あるいは、どれも答えではないのかもしれません。しかし、熱的均衡状態にない水の塊は、その行動が、相当数の異なった特性によって特徴づけられるのかもしれない(→熱が均一ではない水の塊の性質は、かなりの数の異なった特性によって特徴づけられるのかもしれない)ということを理解することが大切です。

Section 13

ムペンバ君の発見は、理論よりも実験の重要性、それまでに獲得されている知見にこだわることの危険性、うわべは単純な現実の物理の問題でさえ判断を下す際に困難さを持っていること、理不尽な否定に直面した際の忍耐強さの大切さといった、科学のたくさんの大切な教訓をとてもうまく示しています。私が知る限り、ムペンバ効果はアフリカの研究者にちなんで名前が付けられている唯一の物理的な現象です。いかに大きな知的可能性が、アフリカ大陸に手つかずの状態で眠っているのかを素晴らしく、じれったいくらいに示唆しています。