ELEMENT 2 -Lesson 10
Euglena
ミドリムシ
Section 1
初見では、たった0.05ミリの長さの、きわめて小さな緑色の微生物であるミドリムシが地球を救う可能性を秘めているとは信じがたいように思われるかもしれない。
その単細胞生物は、その生息地と、光合成によって成長する能力から、しばしば海草やほかの水生植物と同類とされている。
しかしミドリムシは、動き回る能力を含め、動物のような特徴もいくらか持ち合わせている。
Section 2
ミドリムシを特別なものにしている点の1つは、食料としての有用性である。
ミドリムシは非常に栄養豊富で、59の異なるビタミン、ミネラル、アミノ酸を含んでいる。
ミドリムシを粉末状にして、栄養補給食品、飲み物、クッキーに加えることは、人々に栄養上必要なものを提供するのに効果的な方法になるかもしれない。
またミドリムシは、水と光にしか頼らずに急速に増殖し、成長することができる。
Section 3
ミドリムシの利用は、食料の製造や販売にとどまらない。
ミドリムシは環境問題やエネルギー問題の解決にも役立つ。
光合成ができるということは、主要な温室効果ガスであるCO2の排出を減らす助けとして利用できるということである。
ミドリムシからはバイオ燃料も作ることができるので、トウモロコシのような農産物も使う必要はない。
微生物研究家の出雲充さんは、こういった種類の製品が人々の健康を向上させるだけでなく、地球全体にも利益をもたらすと期待している。
Section 4
出雲さんについて言うと、この主張へと至る道のりは、998年のバングラデシュでの経験から始まった。
出雲さんは、そこにいた栄養失調の子どもたちの数を知って悲しみ、彼らの生活に確かに違いをもたらしうる何らかの栄養豊富な食料探しに着手した。
最終的に出雲さんはミドリムシを偶然見つけ、世界の食料問題に取り組みたいという希望に駆り立てられて、自ら事業を起こすことにした。
Section 5
しかしながら、微生物学の専門家に助言を求めると、ミドリムシは培養が難しすぎると必ず言われた。
実はその当時、出雲さんのプロジェクトが必要とする規模でその微生物を生産した前例がなかったのだ。
Section 6
必要な培養方法や技術を開発するのがいかに難しくとも、出雲さんはあきらめなかった。
彼は、ミドリムシ培養の研究者や機能性食品の供給者とチームを組み、2005年に、出雲さんと彼のチームは会社を設立した。
Section 7
必要とされる培養方法を開発しようと追い求める中で、出雲さんと彼の同僚たちは日本中のミドリムシ研究者に連絡を取った。
彼らの熱意に心打たれて、多くの研究者が助けを申し出てくれた。
結果として、2005年の終わりまでに、出雲さんのチームはとうとう世界初の大規模な屋外ミドリムシ培養タンクを製造することに成功した。
「日本中の研究者たちが、ミドリムシを通じて世界をよくしようと努力して、私たちと協力し合いました」と出雲さんは言う。
「それは本当に国家規模の試みでした」
Section 8
バイオテクノロジーにおけるミドリムシの利用は、日本の強みが大きく発揮される分野の1つである。
この国は、みそ、しょうゆ、酒の製造に微生物や発酵を利用することについて長い歴史を持っている。
これらの伝統的手法は、ミドリムシを食料やエネルギー生産に利用するために用いられる技術に、多くの点で似通っている。
こうした手法がなければ、そのチームはミドリムシを利用することに成功しなかっただろう。
Section 9
現在の状況まで一気に話を進めると、ミドリムシの利用に関する問い合わせが世界中から来ているのを彼らは理解している。
培養技術を改善する研究が、沖縄県石垣島にある施設で続いている。
そこで食料やバイオ燃料製品のために生産されるさまざまな型のミドリムシは、ほかの多くの研究機関に輸送されている。
Section 10
現在調査されているミドリムシの利用法の中には、きわめて驚くべきものがある。
その1つは、ミドリムシ由来のバイオ燃料を使った飛行機を飛ばすというアイデアである。
ミドリムシから生産される油は非常に軽いので、次世代のジェット燃料としての使用が大きく期待されている。
化石燃料を燃やす発電所から出る排出物を除去するためにミドリムシを利用する計画もある。
ミドリムシの培養装置によってミドリムシの生産も増やしながら、排出物からCO2が取り除かれるだろう。
そのような技術に対する前途有望な実験がすでに始められており、近い将来、ジェット燃料は実用化されるだろう。
Section 11
最近、出雲さんと彼のチームは、すべての試みの最初の動機である発展途上国にいる栄養失調の子どもたちにミドリムシの健康効果をもたらすことに再び注意を向けることにした。
バングラデシュでは宗教的な制約のために豚肉を食べない人々がいて、彼らは時々、自分たちが食べる物から十分なビタミンB1を得ることが難しいときがある。
そういった理由で、会社はバングラデシュにオフィスをかまえ、NGOと協力して、ミドリムシを原料にした学校給食を地元の子どもたちに提供している。
彼らはこれによってどのように栄養状態が改善されるかを観察し、評価するつもりである。
すべてがうまくいけば、2030年までに、バングラデシュにいる100万人の人々にミドリムシを原料とする昼食が提供されているだろう。
出雲さんは未来を楽観的に見ており、日本の発酵手法を使ったミドリムシの利用には地球を救う力があると、自信を持って公言する。