わやくの部屋

CROWN 2 -Lesson 2


Into Unknown Territory
未知の領域に踏み込んで

創造的な行為、すなわち独創性によって習慣に打ち勝つことがすべてを克服する。 ――ジョージ・ロイス

  羽生善治は歴代で最も偉大な棋士のうちの1人です。彼はまさに「盤面の王様」です。ここではプロ棋士としての経験についてインタヴュアーと話をしています。

Section 1

いつ将棋を指し始められたのですか?
小学1年の時です。最初はほとんどすべての対局で負けていました。でも、1カ月位したら勝ち始めました。2年生の時に、八王子にある将棋道場に行きました。そこで子供将棋大会に参加しました。決勝には進めませんでしたが対局を楽しみました。 もっと上手なプレーヤーになりたくて、練習のために八王子の道場に通い始めました。

  将棋のどんなところがお好きなのですか?
 子供の頃はたくさんの色々な駒を動かせる点が面白いなぁと感じていました。どの駒も独自の動き方をしますから。 そして対局の結果はとても明瞭です。勝つか負けるかしかありません。一局は全体として原因と結果の過程で、勝ち負けは自分自身の責任です。 もちろん、負ければいい気はしませんが将棋は奥がとても深いですから好きです。

Section 2

プロとしての戦歴は70%を超える勝率をお持ちですが、駒を動かす時はいつも自信がおありなんでしょうか?
時として、どう指せばいいか決めるのが難しい時があります。深く指し手を読む十分な時間がないと、指を駒に置くまで次の手がわからないことさえあります。 対局に運が入り込む瞬間です。指がいい選択をしてくれると信頼するのです。ですから、ご質問にお答えすると、駒を動かす時に必ずしもいつも自信があるというわけではありません。

プロ棋士は数百手先まで読めると聞いたことがありますが、その通りなんでしょうか?
そうですね、この点についてははっきりしません。ある棋士グループが、今から10手後の局面がどうなっているか読めるかどうかを議論したことがあります。読めないということでみんなの意見は一致しました。 将棋の対局では駒を動かす時はいつでも決断を下す必要があります。先ほども言いましたように、いつもいつも十分自信を持っているわけではありません。 どちらかというと、これがたぶん正しい手なんだろうなぁと思っているだけです。 次に、対局相手はこちらが予想していない手を指してくるかもしれません。この過程は対局が終わるまで続きます。 一番大切なことは決断を下す力です。

Section 3

決断の際には、直感に頼る時がおありになるのでしょうか?
はい、私は直感が存在すると信じています。私の経験では、直感に基づいた指し手のうち70%位は最善手だったということがわかっています。 たくさんの手を予測できるのは大切なんですが、もっと大切なことは数少ない良い指し手に注意を集中させることができるということです。そして、そこでは直感が必要になります。 しかし、覚えておいてください、直感はたくさんの経験を通して初めて身につくのです。

  多くの時間をかけて過去の戦法を研究なさいますか?
様々な戦法を学ぶことは大切です。 しかし、戦法を知っていることと対局に勝てるということは全く別です。必要なのは戦法の意味をしっかりと理解することによって知識を知恵に変えることです。

  意外な指し手で対局相手を驚かせることが時々おありですが、そうした意外な指し手は対局に勝つ時、効果的なのでしょうか?
  必ずしもそうではありません。何か新しいことをしようと思ったら、恐らくは50%以上の確率で失敗するでしょう。 安全に指し進めれば、しばらくはもっと高い勝率を維持することができるかもしれませんが、今から10年間勝ち続けることはできません。 そして結局は創造性をなくしてしまうことになってしまいます。何か独創的なことをやってみることはもっと面白いことです。

Section 4

素晴らしい才能をお持ちだということはみんな分かっているのですが、ご自身ではご自分の才能をどのようにお考えですか?
  そうですね、もし私に才能があるとすれば、それは忍耐力です。駒の動きを予測できたり、ひらめきがあることは大切なのですが、将棋を向上させようと一生懸命に努力することは持ちうる才能の中で一番大きい才能です。

  将棋が本当にお好きだとお見受けします。将棋で一番魅力的なのはどのような点でしょうか?
  将棋の歴史の中で何十万もの対局が行われてきていますが、しかし、将棋の世界のほんの一握りしか分かってはいません。対局する時は毎回、未知の領域への旅に出かけるような気持ちになります。そして、これが将棋で一番魅力的なことです。

  もし、プロ棋士になっていなかったら、何をしているのだろうと今までにお考えになったことはおありでしょうか?
  実は今まで一度もその点は考えたことはありません。他の仕事をしなければいけないとしたら、1日だけでもタクシーの運転手になりたいと思うかもしれません。 毎日どこに行くことになるのかわからないから、面白い仕事だと思います。

  生きていく上で指針になるようなモットーは何かお持ちでしょうか?
「幸運は勇敢な人に微笑む(→運命は勇者に微笑む)」です。