CROWN 1 -Lesson 9
Crossing the “Uncanny Valley”
「不気味の谷」を越えて
未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである。
-アラン・ケイ
アンドロイドは、人間のように見えるロボットです。私たちはふつう映画の中でアンドロイドを見ます。しかし現在、アンドロイドは私たちの日々の生活の一部になりつつあります。
Section 1
小さな劇場で『さようなら』と呼ばれる劇が上演されています。
ふたりの女優がお互いに話しています。
ふたりのうちのひとりは重い病気にかかっている少女です。
もうひとりはその少女の家族が少女の相手をするように雇ったアンドロイドです。
アンドロイドは少女を慰めるために詩を次々と読みます。
劇場にいる人々は俳優のうちのひとりがアンドロイドだということはわかっています。
そのアンドロイドは別の俳優によって遠隔操作されています。
アンドロイドはほんとうの女性の声で話をして、その動きは人間のようです。
劇が進むにつれて、劇場内の人々は劇の展開にあまりに夢中になり、アンドロイドを見ているということを忘れはじめます。
アンドロイドはあまりに本物の人間のように見えるので、劇の終わりまでには人々はアンドロイドをなんの疑問も感じずに受け入れます。
劇は観客からの拍手とともに終わります。
だれがこのアンドロイドを作ったのでしょうか。
Section 2
『さようなら』のアンドロイドは石黒浩さんによって作られました。
高校時代、石黒さんはよく芸術家になることについて考えていました。
30代のはじめに、石黒さんはロボットを作りはじめました。
最近は、石黒さんはアンドロイドを作っています。
石黒さんの最初のアンドロイドは、4 歳だった彼の娘をモデルにして作られました。
そのアンドロイドをはじめて腕の中に抱いたとき、とても奇妙なことが起こりました。
そのアンドロイドが彼の娘のようなにおいがするように思われたのです。
石黒さんの二体めのアンドロイドはある展覧会のために作られました。
この女性のアンドロイドはあまりにも人間らしく見えたので、多くの人々はそのアンドロイドがロボットであると気づきませんでした。
石黒さんが作った三体めのアンドロイドは、自分自身の複製でした。
石黒さんはそのアンドロイドをジェミノイドHIと名づけました。
ジェミノイドHIは石黒さんの声で話します。
石黒さんが頭をかしげると、ジェミノイドHIも頭をかしげます。
ほとんどの人がジェミノイドHIと自然な会話をすることができますが、ジェミノイドHIといっしょにいて、だれもが落ち着いた気持ちになれるわけではありません。
アンドロイドがほとんど人間であるかのように思えながら、いまひとつ人間らしくないとき、多くの人は落ち着かない気持ちになります。
アンドロイドが「不気味だ」と感じることさえあるかもしれません。
この不気味さはときに「不気味の谷」と呼ばれます。
現在、石黒さんはこの谷を越えるために研究をしています。
どのようにしてそれを成し遂げようとしているのでしょうか。
Section 3
まったく人間と同じように見えるアンドロイドの製作にはふたつの段階がある、と石黒さんは考えています。
第一に、人間の典型的な特徴、すなわち、人間の表情や体の動きの特徴をつかまなければなりません。
第二に、人間の発話や動きをアンドロイドに伝えるために遠隔操作の装置が必要です。
こうしたことが人間のように見えて人間のように話すアンドロイドにつながると石黒さんは信じています。
石黒さんはときどき海外の会議にジェミノイドHIを派遣するように依頼されます。
石黒さんは日本にいて、コンピューターを使ってジェミノイドHIを遠隔操作します。
ジェミノイドHIが話すと、人々は石黒さんが実際にその場にいるように感じます。
このようなアンドロイドを作りだすために、なぜ石黒さんはこんなに懸命に研究をしているのでしょう。
人間のようには見えないのに、それでも私たちに多くの有益な貢献をしてくれるロボットも多くあります。
掃除ロボットがそのいい例です。
とするとなぜ人間のようなロボットなのでしょうか。
アンドロイドを作ることについての石黒さんの理由は、人間であることはなにを意味するのかということを発見することです。
実際に、アンドロイドは石黒さんに興味深いことを教えてきました。
だれかがアンドロイドに触れると、アンドロイドを操作している人も自分が触られたように感じます。
このような経験から、私たちは私たちの脳がどのように機能しているかを知ることができます。
自分の研究は人間の特質を見る新しい見方だと考えることができる、と石黒さんは考えています。
Section 4
ほかの多くの研究者がロボットを扱う研究をしています。
大阪大学の研究チームは、さまざまな接触に反応することができるアンドロイドを開発しました。
平手で叩かれそうだと感じると、アンドロイドは素早くよけることができますが、肩を触られていてもアンドロイドはおとなしくすわっています。
研究チームの主要な目標は、人々がロボットだと思いもしないようなロボットを作り出すことです。
現在のところ、彼らはかなり近づいています。
高橋智隆さんはキロボという名のロボットを開発しました。
キロボは宇宙飛行士の若田光一の話し相手として宇宙に送られました。
若田さんが話しかけると、キロボは若田さんの話に耳を傾けてそして答えました。
「対話が私たちのアンドロイド研究のカギだ」と高橋さんは語ります。
危険な状況での救助アンドロイドも開発されています。
救助アンドロイドは、重たいものを、長い距離、そしてでこぼこの土地でも運ぶことができます。
ほかのだれの生命を危険にさらすことなく、負傷者を救助するために救助アンドロイドを使うことが可能です。
自力で行動して考えることができる、真の自律ロボットに取り組んでいるほかの研究者もいます。
将来、家事をしたり、お年寄りの介護をしたり、英語を教えるアンドロイドもできるかもしれません。
未来には、なにが私たちとアンドロイドを待っていることでしょう。