わやくの部屋

CROWN 1 -Lesson 10

Good Ol’ Charlie Brown
チャーリー・ブラウンお人よし

He always wanted to make people happy. ―― Jeannie Schulz
パパはいつでもみんなを幸せにしたいって思ってたわ ―― ジーニー・シュルツ


漫画『ピーナッツ』は60年以上前に初めて登場しました。この漫画の作者チャールズ・M・シュルツは2000年にこの世を去りましたが、古い漫画が引き続き出版され続けています。毎日、新しい読者が『ピーナッツ』の登場人物たちに出会っています。

Section 1

チャーリー・ブラウン。ルーシー。ライナス。スヌーピー。彼らは半世紀以上にわたって、雑誌や新聞に登場し続けています。 世界中に何億人ものファンを持っています。隣の家の子供たちの名前を知らない人でも、自分は勝てるんだと信じてやまない小さな「負け犬」のことは知っているし、いつも人に忠告しまくる小さな女の子や、 安心毛布を片時も手放さない小さな男の子のことは知っているし、中でも一番有名な、自分のことを戦闘機のパイロットだとか偉大な作家だと思っているビーグル犬のことは知っています。この4人はみんな漫画『ピーナッツ』の主要登場人物です。

なぜこの漫画はそんなにも人気があるのでしょうか? なぜ『ピーナッツ』は世界中の人々の心をつかんで離さないのでしょうか?

漫画『ピーナッツ』をいくつか見て、こうした疑問への答えが見つけられるかどうか見てみましょう。

Section 2

父の日にバイオレットが自分のお父さんのことを話しています。パパはチャーリー・ブラウンのパパよりお金持ちだとか、運動も(チャーリー・ブラウンのパパより)もっとできるだとかって、チャーリー・ブラウンに話します。 チャーリー・ブラウンは、ほとんど何も言い返しません。一緒にパパの床屋さんに来てってバイオレットに言うだけです。どんなに忙しくっても、うちのパパはね、僕のこと好きだから、僕にニコニコ微笑みかけてくれる時間だけはいつもあるんだよ、とバイオレットに話します。 バイオレットはもうそれ以上何も言えずに、歩いて去って行くだけです。バイオレットのお父さんのお金や運動能力は、お父さんがわが子をただひたすら愛しているという事実にはかなわないのです。

多くの『ピーナッツ』の話は、このような家庭生活の心暖まる側面に焦点を当てています。『ピーナッツ』を生み出した漫画家チャールズ・M・シュルツは、自分の子供のころの人物や出来事を漫画で表現したのです。 そして、このことが漫画『ピーナッツ』が世界中の人々にこんなにも人気がある理由の一部なのかもしれません。


ピーナッツ 6月21日

バイオレット:うちのパパ、あんたのパパよりクレジットカードすっごい持ってるだわさ!
チャーリー:そうかもね。

バイオレット:うちのパパ、あんたのパパよりゴルフボールすっごい飛ばせるんだわさ。
チャーリー:知ってるよぉ。うちのパパまだドライバーひどいスライスなんだから。

バイオレット:うちのパパ、あんたのパパよりボーリングすっごいんだわさ。
チャーリー:知ってるさぁ。うちのパパ、まだうまく球、転がせないんだから。

バイオレット:うちのパパ、あんたの……
チャーリー:ちょっと待って。もう何も言わないでよ。見せたいものあるから、ちょっと一緒に来てよ。

チャーリー:ね、これだよ、わかる? パパの床屋なんだ。1日中ここで働いてるんだ。いろんなタイプのお客さんのお相手しなくっちゃいけないんだよ。中にはチョット機嫌を損ねちゃう人もいるんだ。でも、わかる?

チャーリー:僕はいつだって中に入って行っていいんだ。パパはね、どんなに忙しくしてたって、いつだって手を休めて、ニコニコ微笑んでくれるんだよ。何でだかわかるかい? パパ、僕のこと好きなんだよ。だからなんだよ!

バイオレット:父の日おめでとう、チャーリー・ブラウン。
チャーリー:うん、ありがとう。パパによろしくね。

Section 3

この漫画では、ライナスは地元チームがフットボールの試合に勝ったので興奮しています。チャーリー・ブラウンは静かに聞いています。その後で、ライナスに一つの簡単な質問をします。「相手チームはどう感じたんだろうね?」

チャーリー・ブラウンは自分でも失敗を経験していますから、失敗する他の人たちの気持ちがわかるのです。チャーリー・ブラウンのおかげで他の人たちのことが考えられるようになります。

いろんな点でチャーリー・ブラウン自身が敗者です。チャーリーはそんなに優等生でもないし、運動だって得意ではありません。同じクラスのかわいい女の子は、チャーリーには何にも興味を示してはくれません。お金や権力がこんなにもモノを言う世の中にあって、チャーリー・ブラウンは負け犬なのです。

しかし、チャーリー・ブラウンは本当に負けることは決してありません。自分のことをかわいそうに思ったりは決してしません。明日はもっといい日になる、といつも希望を持って、努力し続けるのです。ひょっとして、このことが本当の勝者を作るのかもしれません。



ピーナッツ  チャーリー・ブラウンお人よし

イケェ~! 行け~! いけぇ~!

ライナス:スッゴ~イ!

ライナス:チャーリー・ブラウン、僕、今までで一番信じらんないフットボールの試合、見ちゃったよ。

ライナス:スッゴイ大逆転なんだよ!

ライナス:地元チームが6―0で負けてて、残り3秒だったんだ。自陣1ヤードライン上にボールがあってさぁ。

ライナス:QBがボール受け取って、自陣ゴールポストの後ろまで下がって、完璧なパスをレフトエンドに投げたんだ。LEは4人抜いて、相手エンドまではるばる駆け抜けてTD! ファンはもう大喜びで! このシーンを見るべきだったのに!

ライナス:観客は何度もジャンプして、エクストラ・ポイントをキックすると何千人もの観客がフィールドになだれ込んで、大声で笑ったり絶叫したりさ! ファンも選手も嬉しくって、芝生に寝っ転がったり、抱き合ったり、踊ったり、もう何が何だかてんやわんや!

ライナス:いや~、すごかった~!

チャーリー・ブラウン:相手チームはどう感じたんだろうね?

Section 4

『ピーナッツ』の漫画は、普通の意味で面白いわけではありません。大笑いするというよりは、ニッコリと微笑む方が多いでしょう。 しかし、なぜだかこの漫画を読むと、気分が良くなります。チャーリー・ブラウンにも、ライナスにも、スヌーピーにも、『ピーナッツ』の他の登場人物たちみんなに、明日の新聞でまた会いたくなります。 もし『ピーナッツ』が新聞に載っていなかったら、寂しい思いをすることでしょう。去って行ってしまった友達がいなくなって寂しいのと同じように。その友達がいつも笑わせてくれるからではなく、いつも自分自身についていい気分にさせてくれるからこそ、寂しく感じるのです。

人生の本当の成功は、お金や名声や権力の問題ではない、とチャールズ・M・シュルツは示唆しているようです。むしろ、希望、勇気、他の人を敬う気持ち、そして何よりもユーモアの感覚によって決まる、と示唆しているようです。 チャールズは「もし若い人たちに贈り物をあげる機会が与えられたら、一人ひとりが自分を笑い飛ばせる能力を贈り物にするでしょう。」と、以前、語ったことがあります。

Section 5

50年近くの間、チャールズ・M・シュルツは、来る日も来る日も一度に一つのエピソードずつ『ピーナッツ』をかきました。しかし1999年の暮れ、シュルツは自分がガンで、もうこれ以上は続けられないと知りました。 読者にさようならを言うためにお別れ漫画をかき、約6週間後に掲載されることになっていました。もしシュルツがあと1日長く生きていれば、お別れ漫画が印刷されたのを目にできたことでしょう。悲しいことに、お別れ漫画が出る前の日にシュルツはこの世を去りました。

2000年2月13日、『ピーナッツ』が好きだった世界中の人は、朝目覚めて、『ピーナッツ』の登場人物たちも作者もどちらも、もういないと知ったのです。登場人物を自分の友達だと思うようになっていましたが、もういなくなってしまったのです。 独特のタイプのユーモアとガンバレとの優しい激励で、チャールズ・M・シュルツと『ピーナッツ』は、私たちがこの困難な世の中に立ち向かうのをずっと助けてくれています。

新しい『ピーナッツ』の漫画はないでしょうが、古い『ピーナッツ』の漫画はこれから何年も読まれることでしょう。本当の成功は、他の人に対する思いやりの中にある、小さな親切な行いの中にある、そして大きな困難に直面した時であっても希望を失わない勇気の中にあるんだということを、『ピーナッツ』の漫画はこれからもずっと思い出させてくれることでしょう。



読者の皆さんへ

幸運にも、チャーリー・ブラウンとその友達をほぼ50年間かき続けてきました。私の子供の頃の夢が実現できました。

そして不運にも、コマ割り漫画を毎日連載するというスケジュールをこなしていくことは、もうこれ以上はできなくなりました。 私の家族は、誰か他の人が『ピーナッツ』をかき続けることを望んでいません。ですから、私はここに引退を表明します。

編集者の皆様の誠意と、コマ割り漫画のファンの皆さんからいただいた素晴らしいご支持とご愛顧にこの50年にわたりずっと感謝してきました。

チャーリー・ブラウン、スヌーピー、ライナス、ルーシー……どうして君たちのことを忘れることができましょう……

チャールズ・M・シュルツ