わやくの部屋

PRO-VISION 2 -Lesson 7

The Dark, Mysterious Universe Deep under the Ocean
深海に広がる暗く不思議な宇宙

Section 1

19世紀、海の下の世界がまだ今日と比べてはるかに知られていなかった頃、少年少女たちはフランスの作家ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』に魅了されていました。

これは深海の世界をめぐる想像上の旅について描かれた冒険小説です。

今日では、日本の保有する有人潜水艇「しんかい6500」に乗って、6500 メートルの深さまで潜り、自分の目で波のはるか下に横たわるものを見ることができます。

そして次世代の潜水艇で、それは計画段階ですが、世界の海の最深部、マリアナ海溝の水深1万911メートルまで行くことができるようになるでしょう。

海洋のうち「深海」と言われる部分は、水深200メートルから始まります。

驚くべきことに、これは海全体の体積の95パーセント以上を占めます。

海の平均の深さは約3800メートルで、これは富士山をすっぽり覆います。

深海とはいったいどのようなものなのでしょうか。

暗いだけでなく、巨大な圧力がかかります。

深く潜れば潜るほど水圧は高くなります。

水深1000メートルで101気圧の水圧になります。

それは、指先がすべての方向から約100kgの力で押されているようなものです。

Section 2

深海は過酷な環境であるにもかかわらず、多様な生物のすみかです。

潜水艇に乗って、自分たちの目でこうした生物を見に行ってみましょう。

ちょうど深さ400メートルを過ぎたところです。

窓の外を見てください。

15センチメートルほどの奇妙な姿をした魚は、デメニギス(=barreleye)です。どこに目があるかわかりますか。

頭の中の「2 つの緑の樽」(のようなもの)が目で、そのためこの名前になっているのです。

目は高感度カメラのようで、上方と前方のどちらかを見ることができます。

この目によってデメニギスはほとんど光のない深海で獲物を見つけることができるのです。

さらに深く潜って、海底を探検してみましょう。

私たちは今、深さ1000メートルを超える地点にいます。

海底火山の近くの熱水噴出孔から非常に熱い水が噴き出していて、雪男ガニが周りに群がっています。

何百万年もの間、完全な暗闇にいて、目は退化しています。

光を当てても反応しません。

この種のカニは、体を覆う剛毛の中でバクテリアを育てています。

このバクテリアが熱水の中の栄養分で繁殖し、カニはそれをエサとします。

このように、ある種の生物にとっては目が重要であり、一方、ほかの種の生物にとっては目は重要ではなく別の機能が発達しました。

深海に暮らすどの奇妙な生物も、自分たちのいる環境によく適応しているのです。

Section 3

深海の熱水噴出孔から噴き出す水は、摂氏400度にも達することがあります。

この温度でも沸騰しないのは、海底の水圧が高いためです。

熱水には、天然ガスの主成分であるメタンや、ほとんどの生物にとっては致死となる硫化水素が含まれています。

しかし、この熱水噴出孔の近くでは、驚くべき生命体が生息することが可能です。

それは、先端が赤い細長い管のようなもので、2メートルにも成長することがあります。

その生物はチューブワームと呼ばれます。食べる必要がないため、口も消化管もありません。

ではどうやって生きているのでしょうか。

チューブワームの中にはバクテリアが生息しています。

そして、バクテリアはチューブワームが真っ赤な羽状の部分から取り入れた硫化水素を摂取します。

バクテリアが養分を作り、それはチューブワームの栄養となります。

言ってみれば、チューブワームはバクテリアに部屋と食事を提供し、バクテリアはチューブワームに養分という形で返済しているのです。

動物はほかの生物を食べて生きています。

植物は太陽光からエネルギーを手に入れて生きています。

しかし、チューブワームは深海の熱水噴出孔から出る化学物質に依存して生きているのです。

この点で、チューブワームは私たちが知っているほとんどの生命体とはまったく異なっています。

チューブワームはSF映画に出てくるエイリアンのようだと思いませんか。

Section 4

深海の熱水噴出孔とその周辺は、太古の地球がどのようであったかを明らかにすると研究者たちは考えています。

40億年ほど前までに海が形成され、時を隔てることなくして、その場所に最初の生命が出現したと考えられています。

多くの場所で、海中の噴出孔から熱水が出てきていました。

こうした状況は何十億年も変化していません。

したがって、今日、深海の熱水噴出孔の周囲に生息する生物の姿は、太古の昔に生息していた生物とおそらく類似しているでしょう。

ある日本人の生物学者は、深海の生命の多様性は、宇宙のほかの場所にも同じように生命が存在するかもしれないことを示唆していると考えています。

「もし海の中で、太陽光がなくても生命が存在できるのであれば、どうしてほかの場所で可能でないだろうか」と生物学者は言います。

「硫化水素とメタンがある限り、太陽光がなくてもきっと生命は存在できるはずだ」と。

地球上と同じように、水と火山があるほかの惑星でも生命は進化してきたかもしれません。

生命は極限まで過酷な環境でも生きることができます。

深海の暗闇の世界は、地球上の―そして地球外の―生命の謎に解明の光をあてるでしょう。