わやくの部屋

PRO-VISION 2 -Lesson 3

Mount Fuji - The Eternal Mountain
富士山 - 永遠の山

Section 1

「地平線に雪をかぶった富士山が突然現れた。緩やかに傾斜した山並みの形が朝日によってピンク色に染められていた、まさに葛飾北斎の版画にあるように。移り変わる光の中でその色が絶え間なく変化するのを見て、私は感動で目を潤ませていた」

日本文学の有名な研究者であるドナルド・キーン氏は、初めて富士山を見たときの印象をこのように語りました。

日本人にとって、富士山は日本の象徴として特別な役割を担っています。

しかしこの山を感心して眺めるのは、日本人だけではありません。

そのことは、年々、富士山への登山者がますます多く外国から来ているという事実から明らかです。

彼らの中の一部の人が富士山に抱くイメージについて尋ねられたとき、ずば抜けて最上位にきた回答が「美しい」であり、「荘厳だ」や「神秘的だ」がこれに続きました。

こうした肯定的な側面とは別に、富士山にはもう一つの恐ろしい側面があります。活火山なのです。

ここ数百年間は穏やかですが、かつては江戸、つまり今の東京ほど離れた地域にまで深刻な被害をもたらしたことが記録によって明らかになっています。

美しさと恐ろしさの両面で、富士山は常に日本人の魂を揺さぶり、心の中で特別な場所を占めてきました。

Section 2

日本文化の幕開けから、富士山は文学や芸術のモチーフになってきました。

おそらく富士山ほど多くの画家に描かれた山はないでしょう。

北斎や広重の浮世絵は特筆に値します。

北斎の『富嶽三十六景』では、一連の描写が想像力豊かになされ、富士山を背景にしてさまざまな活動に従事する人びとが描かれます。

広重の『東海道五十三次』は、東海道沿いのさまざまな場所から見た富士山を見せることで、旅ブームを巻き起こしました。

こうした浮世絵のような作品は日本人の心に富士山のイメージを刻み込み、それがさらなる芸術的なインスピレーションの豊かな源泉となったのでした。

こうした浮世絵はヨーロッパの画家にも大きな影響を与えました。

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが描いた肖像画の男性の背後には、富士山の版画をはっきりと見て取ることができます。

フランスの画家アンリ・リヴィエールは、北斎に敬意を表して、『エッフェル塔三十六景』と題する一連の版画を制作することさえしました。

2013年、ユネスコの選考委員会は、次の言葉を添えて富士山を世界遺産リストに加えました。

「特に葛飾北斎や歌川広重による富士山の浮世絵は、西洋美術の発展に顕著な影響を与え、富士山の壮麗な姿を世界中に知らしめました。」

Section 3

夏の夜明けには、富士山の山頂は日の出をうやうやしく眺める人たちで混み合います。

古代から富士山は日本人にとって神聖な山であり、その信仰上の重要性が世界遺産に選ばれたもう一つの理由でした。

日本人は長い間ずっと、富士山がいつか噴火するという恐れを抱きながら暮らしてきました。

山の中に神々が住んでいると信じていたので、噴火を鎮めてくれるよう神々に祈るために、富士山のふもとに浅間神社を建てました。

12世紀頃、富士山の火山活動がおさまり、登山が危険でなくなりました。

いくつかの区域は、『修験道』と呼ばれるある宗派にとって重要なものとなりました。

修験道は古代の日本の山岳信仰と仏教が習合したものです。

15~16世紀になると、修験者に率いられた一般の庶民が、信仰を理由に登山を始めました。

江戸時代には、この慣習が広まり、「富士講」と呼ばれる信仰組織に属する人びとの間で人気になりました。

その結果、以前にも増して富士山は多くの参拝者を引き寄せました。

1889年に東海道線御殿場駅が開設されると、訪れる人の数は再び激増しました。

しかし、こうして訪れる人は、信仰という理由よりもむしろレジャーを目的にやって来ました。

Section 4

今日、富士山は深刻な脅威に直面しています。

ゴミの不法投棄や、必要な数の山小屋やトイレやその他の設備の不足が、環境に大きな被害を与えているのです。

富<士山、それはかけがえのない世界遺産であるのに、どうしてこのようなことが起こっているのでしょうか。

以下は一つの説明です。

富士山は、静岡県と山梨県の二県にまたがっています。

驚いたことに、山頂を所有するのは日本政府でも二つの県でもなく、浅間神社なのです。

したがって、この山のさまざまな問題を包括的に扱う単一の組織がないと言われています。

そのため効果的な行動を起こすことが難しいのです。

間違いなく、このような状況が続くことは許されません。

観光客数に見合った施設を用意し、ゴミの不法投棄を止めるために措置を講じることが必要でしょう。

世界的に有名なアルピニストの野口健氏は言います。

「私たちは、これまで富士山に影響を与える問題に目をつぶってきました。

世界遺産への登録は、こうした問題に私たちがどのように対処するかを世界が注目しているだろうということを思い起こさせてくれます」

富士山を称え、あがめた私たちの先人たちは、富士山が永遠に美しい姿のままであることをきっと期待していたでしょう。

来たる世代からその美しさを奪うことがないように、富士山をどう保全するべきか真剣に考え始めるときに来ています.