わやくの部屋

UNICORN 3 -Lesson 6

Design for the Other Ninety Percent
残りの90%の人のためのデザイン

Section 1

世界のデザイナーの95%が、世界のお客さんの中の一番裕福な10%をもっぱら対象とする製品を開発することに、すべての努力を集中させています。残り90%の人たちに届くためには、まさにデザイン界における革命が必要とされます。

Section 2

運輸関係の技術者は、新型車の優雅な形を作るために熱心に取り組みますが、その一方では、世界の大多数の人は中古の自転車を買うのを夢みることしかできません。デザイナーが、製品をともかくよりスタイリッシュに、より効率的に、より丈夫にするにつれて、製品の価格は上がり、お金のある人は払えるし、払うのをいとわないのです。それとは逆に、発展途上国の貧しい人たちは、何百もの基本的な生活必需品に使えるわずかなお金しか持っていません。購入可能性のために品質においていかなる理にかなった妥協でもする(→値段を手頃にするためには合理的であれば、品質面でどんな妥協でもする = 値段が安ければ、機能が劣っていても受け入れる)準備があり、妥協するのをいとわないのです。しかし、自分たちの必要性を満たさないものは何も、市場で利用できません(→必要ではないものは、何も買う余裕はありません)。

Section 3

現代のほとんどのデザイナーの仕事が、世界の大部分の人たちに影響力をまったく持っていないという事実は、デザインの分野に(新しく)入って来る人たちにとって無駄なことではありません(→デザイン界に新たに乗り出そうとする人たちにはよくわかっています)。ボルダーのコロラド大学工学教授のベルナール・アマデイは、次のように語ります――貧しい国々で手ごろな価格で地方の上水道システムを設計し、作るような問題に取り組む国境なき技師団のような組織のおかげで使えるようになった機会を利用するために、米国全域で工学部の学生が集まってきています(→米国どこででも工学部に学生が集まっています)。もし貧しいお客さんに明確に向けてデザインすることに意義深い貢献が学生にできるなら、なぜデザイナー(としてすでに活動している人たち)はこの領域を無視し続けるのでしょうか? お金持ちのお客さんに向けた製品をデザインするのよりもずっと難しいからなのでしょうか? デザイナーたちは利益が上がらないと受け止めているからなのでしょうか? そんなはずはありません。

Section 4

(元の英文は “Winning isn't everything; it's the only thing.”「勝つのがすべてじゃない。勝つしかないんだ」です。一般には元グリーンベイ・パッカーズのヘッドコーチ、ヴィンス・ロンバルディ(おそらくは歴代NFLコーチの中で永遠に一番有名であり続ける人物)が言ったことになっている言葉です。真実はUCLAのフットボールチームのヘッドコーチが言い出しっぺのようです。)



貧しい人が必要なものは、とても単純で、とても明確ですから、貧しい人たちが喜んでお金を払ってくれる新しい、利益の上がる製品を考案するのは比較的たやすいことです。しかし、そうした製品は(貧しい人たちにとって)値段が手ごろなものでなければいけません。1日2ドル未満しかお金を稼げない世界の27億の人たちにとって、値段が手ごろなことが左右するのです。スポーツに関する一番有名な引用の一つを少しだけ変えて、「値段が手ごろだということがすべてなのではなく、それしかないのです」と言うべきです。

Section 5

貧しい人たちを施し物の受け取り手としてではなく、お客さんとして考えることは、デザインの仕方を抜本的に変えます。手ごろな値段の物をデザインする手順は、購買層として貧しい人たちについて学ぶために存在するすべてのモノを学び、貧しい人たちが自分たちの必要性を満たしてくれるものにお金を支払うことができ、お金を支払うことをいとわないものは何かを学ぶことによって始まります(→手ごろな値段の物をデザインする方法は、次の2つのことを学ぶことから始まります。1つは、お客さんとしての貧しい人たちについて学べることはすべて学ぶことで、もう1つは、貧しい人たちの必要性を満たし、お金を支払うことができ、お金を支払うことをいとわないのはどんなものなのかを学ぶことです)。

Section 6

お金持ち向けの製品をデザインすることによってお金をもうけている人には何の問題もありません。起業家精神あふれる傑出した才能は賞賛に値します。印象的なのは、何十億もの貧しいお客さんたちを含む、とても大きな未開拓のマーケットが、デザイナーとデザイナーが働いている会社によって無視され続けているということです。

Section 7

今日、世界で一番大きな点滴灌漑の設備会社の重役に、「なぜ製品の95%以上が世界の農家の一番裕福な5%を対象としているのですか」と質問すれば、重役たちは、おそらく「なぜならばそこにお金があるからだ」と答えることでしょう。でも、次のことを考えてみましょう。もし世界中の1億の小規模農家がみんな、50ドルで4分の1エーカー(=約1,000㎡=約10a)の点滴灌漑システムを買えば、これだけで全部で50億ドルの投資額になり、全世界での点滴灌漑設備の現在の年間売り上げ額の10倍以上になるでしょう。こうした何百万もの小規模農家は、新規に1,000万ヘクタールに点滴灌漑を利用し、現在、点滴灌漑を利用している地球上の土地を5倍に増やせることでしょう。

Section 8

小さいですが成長しつつあるデザイナーのグループは、世界中の貧しい人たちの生活を向上させるという希望を持って、手ごろな値段の製品を開発し始めていることは、賞賛に値します(→世界中の貧しい人たちの生活を向上させようと願って、手ごろな値段の製品の開発に乗り出しているデザイナーのグループが、小さいですが育ちつつあることは素晴らしいことです)。しかし、安上がりにデザインする方法を推し進める真に継続的な原動力が1つだけあります。

Section 9

それはさっきも言ったように、「なぜならそこにお金があるからです」なのです。