わやくの部屋

UNICORN 3 -Lesson 3

The Kid Who Challenged a Giant Company
巨大企業に挑んだ子

Section 1

時として、人のアイデンティティが、その人の名前に見つかることもあります。ケリードラ・ウェルカーの珍しいファースト・ネームは、この子の両親とこの子自身の人格を私たちに教えてくれます。オハイオ川と支流のカナワ川の合流地点にある、自分たちの故郷ウエストバージニア州パーカーズバーグの野生生物について熱心なアマチュア自然主義者である、ウェルカー家の人たちは、地元にいるカミツキガメにちなんで女の子の名前をつけました。両親の自然を愛する気持ちは、科学的な精神と同様に、ケリードラに受け継がれました。

Section 2

科学研究コンテストに関する研究で、私はこの女の子の名前に出会いました。科学研究コンテストというのは、学校に通う子供たちが科学研究の結果を発表して、他の参加者たちと競うものです。ケリードラは、幼稚園のときからの熱心な競技者としてだけではなく、若いエリン・ブロコビッチとしても、パーカーズバーグではよく知られた人物でした。ソーシャルネットワーキングのサイトでケリードラの名前は簡単に見つけられました。ケリードラは(インタビュー)当時、大学生で、インタビューを受けることに快く同意してくれました。

Section 3

高校2年のとき、優勝するプロジェクトをどうしても考え出したくって、ケリードラは、創造的に考えさせてくれる記事を、地元新聞で苦労して見つけました。テフロンを作る際に大きな会社(=デュポン社)によって使われる化学物質PFOA(ペルフルオロオクタン酸)が、地元の地下水にゆっくりと染み込み、住民の血液検査に現れた(と言う)のです。(1つの)研究によれば、その会社の工場の近くに住んでいる人たちの血液サンプル中のPFOAの量は、全米平均の約6倍でした。さらに進んだ研究によると、PFOAはガンの原因になる可能性があることが示されました。証拠が不十分な間は、パーカーズバーグの水を飲む、いかなる生き物たちも、自らの責任で(危険を承知の上で)水を飲んでいるように思えました。ケリードラはひどくショックを受けました。こんなの正しいとは到底、思えないわ。しかし、科学研究コンテストのプロジェクトのテーマにこの話題を選ぼうと決めたときに、生まれて初めて、次のことを学ぶところでした――正邪だけが、彼女が考えなければいけない要素というわけではないということを(→ケリードラが考えなければいけない要素は、(今問題になっていることが)正しいことなのか、あるいは、間違っていることなのかだけではないということを)。

Section 4

パーカーズバーグでは、ほぼみんながこの大企業で働いていて、ケリードラの家族も例外ではありませんでした。パパはケリードラの科学プロジェクトをいつも励ましていましたが、今回、パパはまゆをひそめたのでした。会社を批判することで、ケリードラはその会社を廃業に追い込もうとしていると告発される可能性もありました。しかし、ケリードラは自分がやっていることは正しいと信じていました。誰もケリードラを止めることはできませんでした。

Section 5

ケリードラの最初の難題は、どのようにして水の中のPFOAの濃度を正確に測定すればいいのかを見つけ出すことでした。経済的な方法であることが、専門家ではない女子高生にとっての絶対条件でした。調べている内に、PFOAは界面活性剤だという1つの事実が目に留まりました。このことは、泡立て溶剤のように、振ると、泡立つということを意味していました。泡立て溶剤をたくさん使えば使うほど、泡がもっとたくさん立つということを、ケリードラは知っていました。解決策がPFOAを多く含む水を沸騰させて、振って、表面にどのくらい多くの泡があるのかを測定するだけという簡単なものだなんてあり得るでしょうか? 数週間にわたる結果をグラフに記入した後で、ケリードラは、この簡単な測定方法が高い正確性をもって機能することを見つけました。

Section 6

次のもっと難しい課題は、上水道からPFOAを完全に取り除く方法を見つけることでした。PFOAを除去するために会社が現在、行っている方法、すなわち炭素フィルターを使う方法は、お金がかかりすぎて、簡単には維持できませんでした。もっといい方法を必死になって探して、ケリードラは、やっとのことで、水から粒子を除去するために電気を使う電気吸着と呼ばれる方法で、少量の炭素を結合させるというアイディアを考え始めました。

Section 7

電極に使うために、ケリードラはパパの古い車からフロントガラスのワイパーをひっぺがしました。表面積を増やすために、ケリードラは、かなりの量のステンレススチールウールをくっつけました。それから、1枚の炭素繊維の薄い膜でスチールウールをはさみました。ケリードラのヘンテコな装置を、地元のディスカウントストア(=ウォールマート)で買った電池につないだ後、ケリードラは大きな注射器の中に詰め、PFOAを多く含む水を上部から注ぎ込み、1滴1滴、落下するのを待ちました。もし運が良ければ、ケリードラの技術は、PFOAを30%除去できるでしょう。ひとたびケリードラの試料がろ過されると、ケリードラはいつもの手慣れた方法の沸騰させて、振る方法を実行しました。

Section 8

泡が一つもできなくて、ケリードラは困惑しました。泡が立たないということは、ケリードラのフィルターが試料の中のPFOAを100%除去したということを意味することになるでしょう。これはどうしたって不可能なことでした。何かミスをしたに違いないと考えて、ケリードラは他の水の試料をろ過して、沸騰させ、振りました。まだ泡はできませんでした。ケリードラはもう一度、この過程を繰り返しました。そして、もう一度。最後には、もし証明が目の前まで来ていないとすれば、あえて受け入れようとはしなかったような考えを、ケリードラは考えざるをえませんでした――あらら、なんてこと。それからケリードラは何度も同じ言葉を言い始めました――あら、あらら、あられ、なんてことなの! (スッゴイ方法、見ーっけぇ~!!)

Section 9

それにもかかわらず、ケリードラの家族は、ケリードラ本人ほど幸せではありませんでした。ケリードラはガッカリしました。しかし、家族が怖がっているのはわかっていましたし、ケリードラも少し怖かったのです。ですから、記録映画製作者がケリードラのプロジェクトに興味を示し、ケリードラに会社側に自分の発見を持ちかけるようにしきりに勧めたとき、その仕事を引き受けるのに気が進みませんでした。それまでに家族から感じ取っていた反応から(判断)すると、ケリードラは会社と直接、対決するということを考えると、少しおじけづいていました。ケリードラは、対決する準備ができていませんでした、少なくとも、まだできていませんでした。その間に、撮影チームが会社の工場を撮影しました。これが大きな問題を引き起こしました。数日後、ウェルカー家の人たちは、FBIの捜査官が表の玄関先に立っているのを見つけて驚きました。化学工場をビデオに収めるのは国家安全の侵害にあたると考えられると、捜査官は一家に伝えました。ケリードラはテロリストではないかとの疑いを、今ではかけられていました。もちろん、そんなことは、ケリードラが予期していたことではありませんでした。ケリードラは会社を攻撃する意図は持っていませんでした。実際は、ケリードラは、会社がPFOAを減らすお手伝いをして、地元の環境を救いたいと切望していました。

Section 10

しかし、事態はさらに悪くなりました。ある日、ケリードラは、自分の発見を発表しようと期待していた、中部オハイオ渓谷地方科学研究コンテストが中止されたと聞き、ぼう然としました。例によって、その大企業が地域の有力スポンサーだったのです。ケリードラは、あれこれ思いを巡らせないわけにはいきませんでした。会社が手を引いたのかしら? 私のせいなのかしら?

Section 11

運のいいことに、ケリードラが参加できる、もう1つの科学研究コンテストのジュニア科学・人間性シンポジウム(JSHS)がありました。これはケリードラが常々行きたいと思っていたけれど、金銭的に無理だと考えていた、ウエストバージニアウェズリアンカレッジで開かれました。科学研究コンテスト期間中、人々は競技者のブースを訪れ、展示を見ました。ケリードラは、自分の研究を聞いてもらえる人なら誰とでも話ができてうれしかったのです。ほとんどの競技参加者とは違って、ケリードラは、自分が行ったことを、「沸騰させて、振るだけなんですよ」といった、簡単な言葉で、いつも説明しました。ケリードラは、科学は単純なものだと考えていたようです。科学が人をおじけづかせる必要なんてない、と考えていたようです。

Section 12

50代の小柄な女性が、ケリードラの研究に興味を示しました。2人は数分間、一緒に話をしました。その女性が(他のブースの方に)ゆっくりと去って行くと、競技仲間がケリードラに近づいてきて、驚いて口をぽかんと開けたまま、教えてくれました。ケリードラはウエストバージニアウェズリアンカレッジの学長と気軽に話をしていたって(→気軽に話をしていた相手は、ウエストバージニアウェズリアンカレッジの学長だっったって)。学長ですって? 大学の学長にしては、この女性はとても謙虚だし、とっても控えめなように、ケリードラには思えました。しかし、後になって、ケリードラは人生で本当に最高の贈り物は、驚くほど質素な、控えめな包みで(→驚くほど質素で控えめなものに包まれて)やって来るとわかることになりました。

Section 13

SHSの受賞式で、ケリードラは優勝しました。しかし、ケリードラの大成功は、まだ終わってはいませんでした。優勝した上に、大学の学長がケリードラの面倒を見ました。ケリードラが存在すら知らなかった奨学金にケリードラを指名したのです。ケリードラは翌年、ウエストバージニアウェズリアンカレッジに通うのに十分なお金を手にすることができました。

Section 14

今、ケリードラはウエストバージニアウェズリアンカレッジにいて、化学を研究しています。ケリードラはもはや、あの会社に立ち向かってはいません。米国内でのPFOA排出量を98%減らすことに成功したことと、2015年までにPFOAを製造し、購入し、使用する必要を(すべて)なくすことを誓約すること(の2点)を、会社の代表者が、2007年に発表しました。ケリードラのPFOA除去法に関してはすでに特許をとっていましたから、ケリードラは、自分の方法を携えて、いつか、会社側に話を持ちかけて、パーカーズバーグの水道から永遠にPFOAをなくす点で会社に協力できればと期待しています。

Section 15

「私が学んだことは、科学は、白衣を着て立ち上がり、10音節の長さの用語を発する誰かある人のこと(だけ)ではないということです(→科学は、白衣を着た誰かさんが立ち上がって、10音節の長ったらしい(難しい専門)用語を使うことなんかじゃないということが、わかりました)。私にとって、科学とは、(人のためになるような)研究を行って、本当に必要としている人たちに研究を届けることです」と、ケリードラは言いました。

Section 16

そして、人間だけではありません。ケリードラは、物心ついてからずっと、いつくしんできている川と湖を守り、こうした水域で泳いでいる(→水域に暮らす)野生生物を守りたいと思っています。ケリードラが夢を実現するためにしなければいけないことは、まだたくさんあります。

Section 17

しかし、ケリードラのことをよく知っていますから、私は、間違いなくケリードラなら努力し続けるだろうと思います。