わやくの部屋

CROWN 3 -Lesson 2

God’s Hands -神の手


If you wish success in life, make perseverance your bosom friend, experience your wise counselor, caution your elder brother and hope your guardian genius.

-Joseph Addison(ジョゼフ・アディソン)

我慢を友とし、経験をカウンセラーとし、注意を兄とし、希望を導きの天才としなさい。

Section 1

いつ医師になるとご決心なさったのですか?

子供の頃、お腹をこわしたり熱を出すといつも必ず、母親は、たまたま親戚の1人だった小児科医のところに連れて行ってくれたものでした。

どういうわけか、その方が書いた医学関係の本と聴診器に惹かれていました。

しかし、医師になることを最初に考えたのは、高校生のときでした。

医師になるのは簡単なことではないのは、みんなわかっています。先生の場合はどうだったのでしょうか?

はい、私もその例外ではなかったと言わざるを得ません。

高校の時は、部活には一切入らず、しかも、入試に備えて塾に行ってさえいました。

でも、3年続けて失敗しました。

最終的に受け入れられたときには、もう21歳になっていました。

考えてみると、試験に失敗しても結局私には悪いことではありませんでした。

私はさらに医者になる決心をしました。

医学部で教育を受けた後で、医師になられました。ご卒業後のお仕事はいかがでしたか?

たくさんの友達が大学病院の医療スタッフとして仕事を始めました。

でも私は違った経歴を選びました。

患者さんともっとたくさん触れ合える総合病院で働きたいと思っていました。

そうすれば、外科医としての技術を向上できると考えました。

そして、総合病院での仕事を探し始め、数回断られた後でやっと何とか働き口を見つけることができました。

心臓手術の後でお父様を亡くされたそうですが、このことで外科医として何らかの形で影響を受けていらっしゃるのでしょうか?

はい、確実に影響しています。

父はずっと心臓病に苦しんでいて、2回手術を受けました。

私が31歳の時、父の状態はひどく悪くなったので、彼は人工弁を交換しなければなりませんでした。

私は父の手術を最初から最後まで見守りました。

しかし、手術中に、難しいことが次から次へと起こりました。

1週間後に、父は亡くなりました。66歳でした。

Section 2

お父様をなくされたのは、さぞショックだったに違いありません。

ええ、本当にこたえました。

私が手術を行ったわけではないんですが、父の死には責任を感じざるをえませんでした。

と同時に、自分の人生を犠牲にして、外科医としてやってはいけないことを私に教えていると感じました。

私の手助けを必要とするたくさんの患者さんの命を救えるように、腕の立つ外科医になるために、出来ることは何でもする決心をしました。

病院での1日の仕事が終わった後で、夜通しずっと縫合の練習をしたものでした。

優れた外科医のことを聞くといつでも、その方の手術を見学するために会いに行きました。

十分に納得するまで、あらゆる種類の質問をしました。

その頃からずっと、私は外科医としてのスキルの向上を常に心がけてきました。

では、お父様の死から多くのことを学ばれたわけですね。

まさにその通りです。

ご存知の通り、ほんのささいなミスでさえも患者さんを危険にさらすことがあります。

これはたぶん、父から学んだ一番大切な教訓のうちの1つです。

お会いする患者さん一人ひとりの命に対して責任があることはわかっていますから、患者さんの命を救うために最善の努力を尽くします。

「手を抜いてはいけない。仕事をこなすだけだ」と心の中で思っています。

「妥協」という言葉は、私の辞書にはありません。

「神の手を持つ外科医」と呼ぶ人もいますが、これについてはどのようにお感じでしょうか?

そうですね、このたとえが私に当てはまるとは考えていません。

本当に必要なものは、神の手ではなく、手術前の入念な計画立案と、事態を計算し予測する能力です。

これまでに7000例を超える手術を行ってきていますが、この経験は、重大な時にどんな措置をとるべきなのかを私が予測するのに役立っています。

手術では、起こりうるどんな事態に対しても素早く正確に対応できるように、五感を十分に使うことが大切です。

Section 3

毎日、深刻な心臓の状態の患者さんにお会いになっていて、お時間のうちほとんどを病院でお過ごしです。患者と良い関係を築くためにあなたは何をしていますか?

患者さんたちといい関係を確立し、そして、その結果として信頼をえることは、医師にとってとても大切です。

個人的には、患者さんの心音を聞くときには、聴診器を患者さんの胸に押し当てる前に、自分自身の手で温めておくようにしています。

そしてそれから、患者さんに違いを分かっていただけるように、私自身の心音をお聞かせしています。

医師としての自分と患者さんとの間の距離を縮めるために、こうしています。

手術のせいで命を落とすかもしれないとわかったうえで、患者さんは来てくださっているんだということを理解しなければいけません。

ですから、このような困難な決断をなさった方々を尊敬する気持ちになる必要があります。

「出る杭は打たれる」とよく言われます。世界でトップの心臓外科医のお一人として、今までに「打たれ」たことはおありでしょうか?

そうですね、今おっしゃたことわざは、ほんの1部分だけ真実だと言えるでしょう。

杭が打たれる場合も確かにあるでしょうが、それはほんの少ししか出ていない場合だけです。

杭が他の残りの杭よりもはるかに大きく出ている場合には、絶対に打たれないものです。

そのようにして、若い意欲あふれる外科医たちを励ますことができればと思っています。

ちょうど良いではいけません。

最高であろうとしてください。

ライバルはいらっしゃるのでしょうか? もしかしてブラック・ジャックとか?

大鐘稔彦の描いた漫画の主人公・当麻鉄彦の名前を挙げておきましょう。

当麻はなぜだか、かつて若く意欲に燃えていた外科医だった私を思い出させてくれます。

最良の手術を行うことによって、患者さんとご家族を幸せにするために、当麻はベストを尽くします。

ライバルというよりむしろ、おそらく当麻は、私がそうありたいと願うような種類の外科医の理想的なイメージです。