帝の求婚
現代語訳
帝は急に日程を決めて、狩りにお出かけになられ、かぐや姫の家にお入りになって中をご覧になると、光に満ちて、気品があって美しい人がいました。帝はこの人がかぐや姫だろうとお思いになって、かぐや姫の近くにお寄りになると、逃げて部屋の奥に入ろうとするかぐや姫の袖をお握りになったので、かぐや姫は顔を覆って帝のそばに控えていましたが、帝ははじめにかぐや姫の顔をよくご覧になっていたので、かぐや姫のことを比類のないほどすばらしいとお思いになって、
「逃しはしないよ。」
といって、連れてお帰りになろうとしますが、かぐや姫が答えて申し上げることには、
「私の身が、この国に生まれたのでしたら私のことをお召しになられましょうが、そうではないので連れて帰られるのはとてもむずかしいことでございましょう。」
と申し上げます。帝は、
「どうしてそのようなことがあろうか。やはり連れて帰ろう。」
といって、御輿をお寄せになりますが、このかぐや姫は、さっと見えなくなってしまいました。あっけなく、残念だと帝はお思いになって、本当にただの人ではなかったのだなぁとお思いになって、
「それであれば、お供には連れて行くまい。もとのお姿になってください。せめてその姿を見て帰るとしましょう。」
と仰せになったので、かぐや姫は、もとの姿になりました。帝は、やはりかぐや姫のことをすばらしいとお思いになることを抑えることが難しい様子でいらっしゃいます。このようにかぐや姫を見せてくれた造麻呂にお礼をおっしゃいました。そうして造麻呂は、帝にお仕えしている多くの役人に、ごちそうを盛大にふるまって差し上げます。
帝は、かぐや姫を残してお帰りになることを、物足りなく残念にお思いになりますが、自分の魂を止め置いた心地がしてお帰りになられました。御輿にお乗りになってから、かぐや姫に 帰りの行幸がなんともつらく思えて、振り返って止まってしまう。私の命令に従わずにその場にとどまるかぐや姫、あなたのせいで。 とお詠みになりました。お返事を、 葎が生い茂るような賤しい家で年を経てきた私が、どうして美しく立派な御殿を見ようと思いましょうか。いや、できません。 と返します。これを帝はご覧になって、よりいっそうお帰りになろうとする方向すらわからないようにお思いになります。御心はまったく帰ることができそうにもお思いにならなかったのですが、そうはいっても、ここで夜をお明かしになるわけにもいかないので、お帰りになられたのです。