新古今和歌集
現代語訳
百首の歌を献上した時の春の歌
山が深いので、春が来たともわからない。松の板で作った粗末な戸に途切れ途切れに落ちかかる、玉のように美しい雪解けのしずくよ。
千五百番歌合わせに
ふと目覚めると、風の吹き通う寝覚めの袖が、風の運んできた花の香りで香っている。花の香りに包まれたこの枕の上で、春の夜の夢を見ていたのだ。
入道前関白が右大臣でありましたとき、歌を百首よませましたが、そのときのほととぎすの歌
夜、雨が降る草の庵の中で昔を思い出し、わたしは涙にくれている。山ほととぎすよ、悲しげな声で鳴いてこれ以上わたしの涙を誘わないでくれ
題知らず
秋の寂しさは、特にどの色のせいだという事はないのだなぁ。一面にまきが生い茂っている、この秋の夕暮れのなんと寂しい事よ。
題知らず
しみじみとした情趣や悲しみの情を知る事のない私のような者にも、しみじみと心にしみることだ。鴨の飛び立っていくこの沢辺の夕暮れの景色は。
西行法師が私にすすめて、百首歌を詠ませました時に
見渡せば、浜辺には春の花も秋の紅葉も美しいものは何一つないよ。漁師の粗末な小屋が建つ、この浦の秋の夕暮れは。
百首歌を献上したとき詠んだ歌
私の恋は、ちょうど時雨が松を紅葉させられないで、葛の生えている原に風が音を立てているようなものである。
百首の歌を詠みましたときに
以前住んでいた土地は、浅茅の生い茂る野末になってしまって、ただ、月の中に残っている、昔親しかった人の面影よ。