観音のご加護
現代語訳
今となっては昔のことですが、大変貧乏に過ごしている女がいました。たまに通ってくる男が今夜も来たのですが、雨が降って外に出られずにいたので女の家に留まっていました。女は、
「どのようにして男に食事を食べさせようか」
と思い悩みますが、どうすることもできないでいます。日も暮れてきました。(女は自分の境遇を)たいへん気の毒に思い、
「私が祈っている観音様、お助けください」
と思ったところ、親が生きていた頃に使われていた女中が、とてもみごとな食べ物を運んで来たのでした。嬉しくて、彼女にお礼にあげる物がなかったので、小さな紅い小袴を持っていたのでこれを与えました。自分も食べ、男にも食べさせてから就寝しました。
明け方には男はかえって行きました。女は、早朝になって、持仏堂でおまつり申し上げている観音様を拝見しにいこうと思って、几帳(しきり)を立てて、まつり申し上げていた状態の観音様を、帷子をめくってお参りしましいた。 すると、女中に与えた小袴が仏の肩にかかっていたので、とても驚きました。昨日、女中に与えた袴です。女はしみじみと驚きましたが、思いがけなく持ってきた物は、この仏様の仕業だったのです。