古今和歌集
現代語訳
立春になった日、詠んだ歌
去年の夏、袖がびしょびしょに濡れる様にして手ですくった水が、冬の間凍っていたのを、立春の今日の風が溶かしているのだろうか。
渚の院で、桜を見てよんだ歌
世の中に全く桜の花がなかったとしたなら、春の人の心はのんびりしたものになるだろうに。
題知らず
五月を待って咲く橘の花の香りをかぐと、ああ、昔馴染みの人の懐かしい袖の香りがするよ。
立秋の日に詠んだ歌
秋が来たとは目にははっきりと見えないけれども、吹いてくる風の音で秋が来たと気づいた事だ。
冬の歌としてよんだ歌
山里はいつも寂しいが、冬はさらに寂しさが勝っているよ。人の往来も途絶え、草も枯れてしまうと思うと。
中国で月を見て詠んだ歌
大空をはるか遠く眺めやると、昔、春日にある三笠山に出た月と同じ月が昇ってくるよ。
この歌は、昔、仲麻呂を中国に留学生として派遣したところ、長い年月を経ても帰国できなかったが、日本からまた遣唐使が派遣されてきたので、一緒に帰国しようとして旅立ったが、明州というところの海岸で中国の人たちが送別の宴を開いた。夜になって、月がたいそう美しく昇ってきたのを見て詠んだ歌だと語り継がれている。
題知らず
しきりに思いながら寝たから、あの人が夢に見えたのだろう。夢とわかっていたのならば、目が覚めないでいればよかったのに。
仁明天皇の代に、蔵人頭として夜昼親しくお使えしていたところ、天皇が崩御して、国中が一年間の喪に服する期間になってしまったので、わたしはまったく世間との交際をせず、比叡山に登って出家してしまった。その次の年、すべての人は喪服を脱いで、あるものは位を昇進させて頂くなどして喜んでいるのを聞いて詠んだ歌
朝廷に仕える人々はすべて、喪が明けたので華やかな着物に着替えたようだ。わたしの僧衣の袂よ、せめていつまでも涙に濡れていないで乾いておくれ。