PROMINENCE 2 -Lesson 8
Welcome to the World of Tove Jansson
トーベヤンソンの世界へようこそ
Section 1
たいていの日本の高校生は、ムーミンとしても知られているムーミントロールを知っています。
この世界的に有名なキャラクターが描かれたバッグ、カップ、文房具を持っている生徒もいます。
しかし、ムーミントロールの生みの親である、トーベ・ヤンソンを知っている生徒はどれくらいいるでしょうか。
1914年に、トーベはフィンランドのヘルシンキで芸術家の家族に生まれました。
彼女の母親は画家で、父親は彫刻家でした。
彼女の度量の大きい家族や、客として彼らを訪ねた多くの芸術家たちは、トーベに彼女独自の芸術的表現を探すように勧めました。
家族に加えて、フィンランドの美しい自然が子供の頃のトーベに大きな影響を与えました。
彼女は両親と一緒に夏を過ごした島の浜辺と森を愛し、特別な世界であるムーミン谷を生み出すのにその自然を利用しました。
ここがムーミンの物語が展開する場所です。
画家としての最初の10年間に、トーベは絵画だけでなく驚くほどバラエティー豊かなイラストも生み出しました。
彼女は15歳のとき、すでにリベラルな雑誌『ガルム』の投稿者でした。
その雑誌には、彼女が描いたヒトラーの風刺的なイラストが見られます。
彼女が幼い女の子だった頃、父親が家族を残してフィンランドの内戦に行ってしまったので、彼女は心の底から戦争を憎んでいました。
彼女の父親は無事に戻ってきましたが、トーベと母親はある期間、父親なしで暮らさなければなりませんでした。
Section 2
第二次世界大戦中のソビエト連邦との戦争の最中に、ヤンソンはヘルシンキの中心部に屋根裏のアトリエを何とか手に入れました。
戦争というひどい条件の下でも、そのアトリエは彼女の大切な家になりました。
ヤンソンがムーミントロールを主人公にした最初の本を書き終えたのはそのアトリエでした。
『小さなトロールと大きな洪水(邦題)』(1945)がムーミンシリーズの第1巻でしたが、その中ではムーミン、ムーミンママ、ムーミンパパ、スニフ、そしてムーミン谷に引き寄せられた他の様々な登場人物たちを中心に物語が展開します。
戦争中、彼女の風刺的な絵とイラストは政府の検閲を受けました。
ヤンソンは戦争の狂気から逃れ、自分を表現することができる別の世界を作り出す必要があると感じていました。
ムーミンの物語は作者の描く、ムーミンの生活の美しい絵によって命を吹き込まれました。
ムーミンの本はあらゆる年齢層の人たちの心に訴えます。
彼女と同時代の人たちは、ヤンソンのムーミン谷の物語は子供たちのためだけのものではないと感じました。
人々はさっとムーミンの本を手に取り、読み始めるのですが、自分たちの人生の真実と向かい合うことになります。
Section 3
人々がこれらの本を読み始めると、人生に対する深い洞察力を持つムーミン谷の住人たちに引かれるようになります。
彼らの言葉は、時には読者の世界観を変えることがあるのです。
谷で、私たちは小さなミイを見つけます。
彼女はひとりの女の子にアドバイスしますが、その子は彼女のおばの度重なる皮肉によって透明になっています。
ムーミンママの優しさと温かい世話のおかげで、その女の子の体は次第に見えるようになります。
小さなミイはその女の子に、自分の顔を取り戻すために戦う必要があると言います。
怒りをあらわにしたとき、その女の子はとうとう自分の顔を取り戻します。
小さなミイの言葉が彼女を励まし、救ったのです。
ミイの言葉は、自信を失い自分自身のアイデンティティーに不安を感じている現実の人々を助けることができます。
スナフキンのことを忘れないでおこう。
彼はテントで暮らす旅する詩人です。
『ムーミン谷の彗星』で、ムーミントロールとスニフとスナフキンはムーミン谷に接近している彗星について情報を得るために天文台に向かいます。
彼らがガーネットでいっぱいの小さな谷を通るとき、スニフは少し取ろうとしますが、ガーネットを守っている大トカゲが彼の邪魔をします。
スナフキンはスニフに、ものを「持つ」必要はないと優しく言います。
スナフキンはものをただ見ているだけで、立ち去るときに自分の頭に入れて行くと付け加えます。
そうすると、スナフキンの両手はいつも空いていて、スーツケースを持ち歩かなくて済むのです。
彼の言葉は私たちに欲望から解放される方法を教えています。
Section 4
ムーミンの物語は世界中の人々の心を動かしました。
しかし、私たちはムーミンの世界は自分の国の内戦と、世界大戦に苦しんだひとりの芸術家によって生み出されたということを忘れるべきではありません。
私たちがムーミン谷の平和な生活の上に漂う戦争の影を見ることができるいくつかの例があります。
例えば、ムーミンシリーズ全体のまさにその始まりでは、ムーミントロールとムーミンママが、自分たちの家を失って、森の中をさまよっていました。
ムーミンパパはどこにも見当たりませんでした。
おそらく、このシーンは内戦中のヤンソンの父親に対する切なる思いを象徴しているのでしょう。
もうひとつの例は、ムーミン谷に接近する彗星です。
これは第二次世界大戦でフィンランドを脅かしたナチスドイツまたはスターリン主義のメタファー(隠喩 )かもしれません。
様々な登場人物の組み合わせがムーミン谷を作り上げています。
何人かは温かくて賢く、何人かは風変わりで利己的です。
しかし、彼らのどのひとりもその世界の不可欠なメンバーなのです。
ムーミンの世界は私たちに、自由と平和が存在するためには私たちはお互いを受け入れ、尊重しなければならないと示唆しています。